研究課題/領域番号 |
17H06258
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
亀井 保博 基礎生物学研究所, 生物機能解析センター, 特任准教授 (70372563)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2023-03-31
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キーワード | 熱ショック応答 / HSF / 赤外レーザー / イメージング / 温度計測 / 単一細胞 / biothermology / 分子進化 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、生物における温度に関わる現象を理解するための理論を考えることである。まずは、さまざまな生物種HSF1の応答温度を、変温動物モデルとしてメダカ(個体)で、また、恒温動物モデルとしてマウス(培養細胞系)でそれぞれ統一した系で評価した。メダカ生体内(in vivo)での応答温度を検証するためのトランスジェニック動物での実証のため、熊本大学と共同研究でレシピエントであるメダカHSF1のKOを確立に関して論文化した(Frukawa et al, Sci Rep, 2019等)。2019年度は、これまでにクローニングを完了した約10種の生物種のHSF1を実際にメダカ胚あるいはマウス培養細胞に導入・発現させて、熱ショック応答温度を解析した。熱ショック応答の時間的な経過をqPCRによるmRNA量の定量、および、タイムラプスイメージング(蛍光タンパク質あるいはルシフェラーゼ発光)による発現解析を行い、個体ではおよそ12時間、細胞では4時間でタンパク質量が最大になることを確認した。そして、熱ショック温度を振って上記時刻でデータを取ることで、それぞれの応答を評価した(現在論文投稿準備中)。 本課題で最も重要な「生体・細胞における熱の伝わり方の理解」のために、新たな生体内温度イメージング法を開発しているが、これまで大阪大学と共同研究で光毒性の少ない長波長域で励起が可能な温度プローブを開発し、培養細胞系への導入が完了し、赤外レーザー照射による温度変化を高速で観測できる顕微鏡の構築も完了した(現在論文投稿準備中)。 一方で、IR-LEGO顕微鏡法の応用として国際共同研究も実施し、熱ショック応答による遺伝子発現ではなく、単一細胞アブレーションによる神経細胞再生過程の解析に加え、分子同定のための追加実験を実施した(国際共著論文投稿中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は2つのカテゴリーを同時並行で進める計画となっており、【A】生体構成要素(オルガネラ・細胞質・生体分子など)の熱的な物理特性の解析と、【B】生体分子(タンパク質、核酸)の熱・温度に対する物性の進化過程における変化の解析を計画している。まず、【A】については、細胞レベルでの熱的物性評価系として、温度計測プローブの開発と、高速温度イメージング顕微鏡の開発の2つが前提条件となる。すでに備品としてW-View Gemini(顕微鏡イメージング用分光装置)を購入し、高速ライトシート顕微鏡(基礎生物学研究所野中准教授の協力)へ導入する予定であったが、赤外レーザー導入光学系の設置が空間的に困難 であるため、まずは通常の蛍光顕微鏡による高速温度計測系を構築し、実測まで達成できた。実測結果から時間分解能が不足していることから、別件科研費を申請し、高速カメラ導入に目途が立った。以上から、Aに関しては予定通り進捗しているといえる。【B】に関しては、HSF1をモデルに複数生物種において生息温度と、熱ショック応答温度の評価を、in vivoとin vitroで実施するための土台となるメダカHSF1-KO系統を樹立(論文報告済)し、培養細胞系における評価を実施するまでに至った。今後はin vitro系での複数生物種の組換えタンパク質における結合解析を行う。以上からBに関しても順調に進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画と異なる点としては、温度の動態が予想以上に高速であったため、現状所有のカメラでは限界となった。新たに高速カメラが必要となったが、別件外部資金(基盤B)が採択され、高速イメージングが実現できる見込みとなり、現状の進捗は予定通りであるため、2020年度に特段の変更は考えていない。一方で、直接的には研究に直結しない部分であるが、これまでに、バイオサーモロジーワークショップを開催してきたが、2020年度にも開催を継続する。共同研究者や、関連分野の研究者と相談して講演者をすでに決定し、開催に向けて準備を進めている。このワークショップを通じて、本研究課題遂行に必要な情報交換や、共同研究を積極的に模索する。
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