研究課題/領域番号 |
17H06259
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
猪股 秀彦 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (60372166)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | モルフォゲン / 濃度勾配 / 時空間制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、細胞に位置情報を付与し組織パターン形成の中心的な役割を果たしている分泌タンパク質の分布を時空間的に制御する新規手法の開発を行っている。前年度までに、(1)人工マトリックスを用いた時空間制御、および(2)人工レセプターを用いた時空間制御の二通りの手法を用いて解析を行ってきた。本年度は、特に「シグナルペプチド-蛍光タンパク質-光受容タンパク質-膜貫通ドメイン」を基本骨格とする人工レセプターの開発を中心に行ってきた。前年度に引き続き、さらに多数の人工レセプターを作成したところ、適切に細胞膜に局在するコンストタクトを少数ながら得ることに成功した。これにより、当初の予定である人工マトリックス、人工レセプター、および分泌タンパク質の3種類を作製することに成功した。 次に、これらのコンストラクトを用いて実際に分泌タンパク質の分布を光依存的に制御可能か検証した。具体的には、ゼブラフィッシュ胚の8細胞期の1割球に分泌タンパク質を、他の1割球に人工レセプターまたは人工マトリックスのmRNAをインジェクションしシールド期まで培養した。暗条件下では、分泌タンパク質は細胞間隙を自由拡散し、人工レセプターあるいは人工マトリックスへの有意な集積は認められなかった。一方、光刺激下では、分泌タンパク質が人工レセプターおよび人工マトリックスを発現している細胞に集積している様子が確認された。このとき、人工マトリックスに比べて人工レセプターの方が効率よく分泌タンパク質を集積した。この原因として、過剰な人工マトリックスは内在性のマトリックスと結合せずに細胞間隙を拡散し、分泌タンパク質の拡散速度を減速できていない可能性が考えられる。一方、人工レセプターは常に細胞膜に固定されているため発現量を考慮する必要がないため、人工マトリックスよりも優れた実験系であると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、当初の予定通り人工レセプター、人工マトリックス、および分泌タンパク質の3つのコンストラクトを作成した。さらに、ゼブラフィッシュ胚に発現させた分泌タンパク質が光刺激依存的に人工レセプターおよび人工マトリックスに結合することをin vivoにおいて確認した。以上の結果から、現在までの進捗状況は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの結果を踏まえ、今後は分泌タンパク質の分布をより容易に制御できる人工レセプターに注目して研究をさらに推進する。具体的には、(1)光褪色後蛍光回復法(FRAP法)を用いた拡散速度の計測、および(2)光刺激依存的な組織パターン形成の制御を行う。本研究では、光刺激依存的な人工レセプターと分泌タンパク質の相互作用を利用して分泌タンパク質の分布制御を行なっている。このとき、細胞膜に固定された人工レセプターは細胞膜上を側方拡散するが、分泌タンパク質のように細胞間隙を自由拡散することができない。従って、光刺激依存的に分泌タンパク質の拡散速度が減速することが予測される。実際にFRAP法を用いて分泌タンパク質の拡散速度を計測し、暗下および光刺激下で拡散速度にどのような影響を与えるか検証を行う。 一方、発生過程においてモルフォゲンなどの分泌タンパク質は、濃度依存的に胚を構成する細胞に空間情報を付与することが知られている。本研究では、分泌タンパク質の分布を光依存的に制御することにより、組織パターンの制御を試みる。具体的には、これまでに使用してきた分泌タンパク質に背側化因子ChordinのCR1ドメインを融合することにより、背側化活性を付与する予定である。このコンストラクトを表現系が出ない程度に胚全体に弱く発現させ、人工レセプターは腹側領域にのみ発現させる。暗下条件下では胚全体にCR1を融合した分泌タンパク質が均質に分布するが、光刺激により分泌タンパク質が腹側領域に集積し腹側組織の消失を引き起こすと考えている。 以上の実験により、今後は(1)In vivoにおける分泌タンパク質の拡散速度の光制御系の構築、及び(2)ゼブラフィッシュ胚を用いた光依存的な背腹パターンへの擾乱実験を行う予定である。
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