本研究では、濃度依存的に胚細胞に位置情報を付与する分泌タンパク質モルフォゲンの新規時空間制御系の開発を行っている。これまでに、分泌タンパク質の空間分布を制御する手法はin vitroの系で開発が行われているが(マイクロ流体デバイスなど)、胚内の分布制御系に関してはほとんど解析が行われていない。前年度までに、(1)人工マトリックスを用いた制御系、(2)人工レセプターを用いた制御系、の二通りの方法を解析してきた。その結果、人工レセプターを用いた手法がより効率的に機能することを示した。 今年度は人工レセプターを用いて、in vivoにおけるモルフォゲンの時空間制御系の開発を進めた。本研究で用いる光受容タンパク質は、補因子としてフラビン化合物を必要とするが、細胞内に豊富に存在するフラビンは細胞外には殆ど存在しない。したがって、予め細胞外にフラビン化合物をインジェクションする必要がある。しかし、フラビン化合物は光により分解されやすく、発生制御には長時間の光照射が必要である。フラビン化合物、光照射条件を検討した結果、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を用いてパルス状の光照射により長時間光制御可能であることが判明した。この条件で、ゼブラフィッシュ胚を用いて中胚葉誘導因子(Ndr1)を光依存的に局所に集積させた結果、異所性の中胚葉誘導(Ntlの発現上昇)がみられた。この中胚葉誘導が、Ndr1シグナルの活性化に起因することは、Ndr1のレポーターアッセイである3xARE-Lucベクター、あるいはNdr1の下流に存在するSmad2-RFPの核移行により評価した。一方、モルフォゲンを胚内で動的に制御可能か光を右から左に遷移させたところ、直線波様の進行波が胚内に構築された。以上の結果は、本手法が分泌タンパク質モルフォゲンを胚内で動的に時空間制御できることを示している。
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