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2020 年度 実施状況報告書

オートファジーとは異なるミトコンドリアのリソソーム分解メカニズムの発見とその意義

研究課題

研究課題/領域番号 20K20305
配分区分基金
研究機関国立研究開発法人国立がん研究センター

研究代表者

荒川 博文  国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (70313088)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2022-03-31
キーワード液-液相分離 / 液滴 / membraneless organelles / 非膜オルガネラ / ミトコンドリア品質管理 / カルジオリピン / 代謝制御 / がん抑制
研究実績の概要

Mieapは天然変性領域(以下IDR)を有するタンパク質であり、ミトコンドリア内へ液滴を形成することが明らかになった。この液滴はミトコンドリア内膜上におけるカルジオリピン代謝を区画化・促進する膜のないオルガネラ(非膜オルガネラ)として機能することを明らかにした。Mieapタンパク質は両親媒性タンパク質の性質を有し、細胞内でバイオサーファクタントとしての働きを有している。さらにタンパク質のC末端側約半分は疎水領域であり、かつ2箇所の陽性荷電のアミノ酸クラスター部位を見出した。Mieapタンパク質はFat blot assayで、カルジオリピン(以下CL)と特異的結合を示した。このことからMieapは強く負に荷電したミトコンドリア特異的脂質であるCLと、2箇所の陽性荷電領域及び疎水性領域を介して結合している可能性が示唆された。一方でN末端半分は親水領域であり、2箇所のcoiled-coil領域(以下CC)と3箇所のIDRを認めた。このことからMieapはN末領域のCCとIDRでCL代謝酵素と結合している可能性が示唆された。以上の結果から、MieapはC末領域でCL代謝の基質となる脂質と強く結合し、一方N末領域でCL代謝酵素と緩く結合することでCL代謝の連続反応を制御していると考えられる。CLはミトコンドリア内膜特異的な脂質であり、多くのミトコンドリアタンパク質と結合して、それらの足場となり、機能の発現に重要な役割を果たしている。そのためCLの量的及び質的な異常は、多くのミトコンドリアタンパク質の機能異常を引き起こし、ミトコンドリア機能異常の原因となり、様々な疾患や病的状態を誘発する。Mieapによる非膜オルガネラ形成を介したCL代謝制御はオートファジーやプロテオスタシスに続く第3のミトコンドリア品質管理機構であると考えられる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

以下の点を明らかにした。(1)Mieapは液滴を誘導しうる天然変性領域を有したタンパク質である。(2)Mieapはミトコンドリア内へ液滴を形成する。(3)Mieap液滴はCLを相分離する。(4)Fat blot assayでMieapはCLと結合する。(5)Mieap液滴はCL結合タンパク質であるcytochrome c、ATP synthase-alpha、PHB2を相分離する。(6)Mieapの存在及び非存在下におけるCLの網羅的リピドミクス解析において、Mieapの発現量は明確にほぼすべての種類のCLの量と正に相関し(生合成)、さらにある種のCLの割合を増加させる(リモデリング)ことが明らかになった。(7)Mieap液滴とCL代謝に関わる酵素群の関係を調べたところ、CL生合成酵素のTAMM41、PGS1、PTPMT1、CRLS1と、CLリモデリング酵素のPLA2G6とTAZがMieap液滴内へ相分離されることを明らかにした。(8)Mieapノックダウン細胞株においては、クリステ構造異常、ミトコンドリア呼吸活性の低下、ミトコンドリアATP合成能の低下、ミトコンドリアROSの増加を認めた。これらはCL欠損細胞株に特徴的な表現型である。(9)Mieapノックアウトマウスの肝臓及び腎臓の電子顕微鏡解析によって、Mieap欠損によるミトコンドリア・クリステの構造異常を認めた。(11)若年から高齢までの1353匹のMieap+/+, Mieap+/-, Mieap-/-マウスの体重を調べたところ、Mieap欠損マウスが肥満傾向を示すことを明らかにした。
以上の結果から、Mieap液滴は非膜オルガネラとしてCLの生合成やリモデリングの制御を行う代謝制御液滴であると結論づけた。MieapはCL代謝制御を介してミトコンドリア品質管理に重要な役割を果たしていると考えられる。

今後の研究の推進方策

以下の解析が今後重要と考えられる。(1)Mieap液滴によるCL代謝連続反応の仮説を証明するために、Mieapタンパク質のC末領域とCL及びCL代謝関連脂質の結合や、N末領域とCL代謝酵素群の会合を調べていく。(2)MieapによるCL代謝制御ががん抑制機能として作用する可能性の検証を行う。(3)Mieapノックアウトマウスで明らかになった肥満傾向がCL代謝制御異常に起因することの証明を行う。(4)生理的Mieap液滴の可視化を試みる。(5)リソソームタンパク質とMieap液滴の関係を調べる。

次年度使用額が生じた理由

本研究課題が開始された時点での「液胞によるミトコンドリア分解メカニズム」の解析を行う中で、新しい概念である「液-液相分離による液滴の形成と非膜オルガネラとしてのCL代謝制御」という全く予想外の展開を示してきた。このような液胞研究から液滴研究への大きな研究計画の転換の中で、研究期間中に新しい実験計画の構築と研究の推進を行う必要性が生じたために、予定期間を超えての解析を進める必要性が生じた。次年度使用の研究費については、特に今後の推進方策で述べた (3) (4) (5) に対する実験に対して使用を予定している。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2020 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うちオープンアクセス 2件、 査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Mieap forms membraneless organelles to compartmentalize and facilitate cardiolipin metabolism2020

    • 著者名/発表者名
      Ikari N, Honjo K, Sagami Y, Nakamura Y, Arakawa H
    • 雑誌名

      bioRxiv

      巻: - ページ: 1-50

    • DOI

      10.1101/2020.10.26.354365

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] p53/Mieap-regulated mitochondrial quality control plays an important role as a tumor suppressor in gastric and esophageal cancers2020

    • 著者名/発表者名
      Sano H, Futamura M, Gaowa S, Kamino H, Nakamura Y, Yamaguchi K, Tanaka Y, Yasufuku I, Nakakami A, Arakawa H, Yoshida K
    • 雑誌名

      Biochemical and Biophysical Research and Communications

      巻: 529 ページ: 582-589

    • DOI

      10.1016/j.bbrc.2020.05.168.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Mieap liquid droplets: a new concept in mitochondrial quality control and tumor suppression2020

    • 著者名/発表者名
      荒川 博文
    • 学会等名
      第79回日本癌学会学術総会
    • 招待講演
  • [学会発表] Mieap液滴は損傷ミトコンドリアを液-液相分離することでがん抑制に作用する2020

    • 著者名/発表者名
      碇 直樹、中村 康之、荒川 博文
    • 学会等名
      第79回日本癌学会学術総会
  • [学会発表] p53/Mieapを介したミトコンドリア品質管理機構の上部消化管癌における役割2020

    • 著者名/発表者名
      二村 学、スチン ゴア、佐野 仁哉、荒川 博文、吉田 和弘
    • 学会等名
      第79回日本癌学会学術総会
  • [備考] 腫瘍生物学分野HP

    • URL

      https://www.ncc.go.jp/jp/ri/division/cancer_biology/index.html

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公開日: 2021-12-27  

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