研究課題/領域番号 |
17H06277
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 滋賀県立成人病センター(研究所) |
研究代表者 |
伊藤 壽一 滋賀県立成人病センター(研究所), その他部局等, 所長 (90176339)
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研究分担者 |
西村 幸司 滋賀県立成人病センター(研究所), その他部局等, 専門研究員 (20405765)
扇田 秀章 滋賀県立成人病センター(研究所), その他部局等, 専門研究員 (20761274)
大西 弘恵 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (50397634)
山本 典生 京都大学, 医学研究科, 講師 (70378644)
田浦 晶子 京都大学, 医学研究科, 助教 (70515345)
松本 昌宏 滋賀県立成人病センター(研究所), その他部局等, 専門研究員 (80773811)
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研究期間 (年度) |
2017-06-30 – 2021-03-31
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キーワード | 聴力再生 / 人工内耳 / 蝸牛有毛細胞 / 蝸牛神経 / 細胞移植 / チャネルロドプシン |
研究実績の概要 |
本研究では、蝸牛有毛細胞と、蝸牛神経の同時障害に対して、人工内耳と細胞移植による蝸牛神経再生を融合させて、高度感音難聴患者により質の良い聴覚を回復せしめることが目的である。そのために、今年度は蝸牛有毛細胞と、蝸牛神経の両方に障害を与えたモデル動物の作製を行った。障害のために用いた方法は、これまでに報告のある、カナマイシンとフロセミドの併用による蝸牛有毛細胞の障害とウアバインによる蝸牛神経への障害である。実験動物はモルモットを使用した。さらに、細胞移植の方法を確立するために、上記の障害を与えた動物に細胞の移植を行った。移植に用いた細胞は。入手が容易で、比較的培養が簡単な骨髄間葉系細胞を蝸牛軸に移植を行った。移植細胞はPKH26を用いて標識を行った。以前の報告と同様に、顕微鏡下にマイクロマニュピレータを用いて行った。同方法で蝸牛軸に細胞を移植することは可能であったが、視野の確保等、安定して、移植を行う上では支障のある点があり、今後、内視鏡を使用する等、移植の手技については改良する必要がある。また、移植細胞を作製するために、ヒトiPS細胞から蝸牛神経細胞への分化誘導実験を開始した。従来報告のある蝸牛発生に沿った分化誘導プロトコルに加えて、短期間に蝸牛神経前駆細胞を簡便高確率に誘導する方法を開発する予定である。さらに、in vitroで人工内耳電極と移植神経細胞のインターフェースを検討し、in vivoに応用する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モルモットの聴性脳幹誘発反応(ABR)と電気刺激による聴性脳幹誘発反応(eABR)を測定する実験系を確立した。さらに蝸牛神経の活動を評価するために、蝸牛の近傍に留置した電極から複合活動電位(CAP)を測定する手技を開発した。聴覚障害モデルについては、これまでの報告のあるとおり、ハートレー系モルモット4週齢オスを用いて、カナマイシン150 mg/kgを皮下注射、フロセミド100 mg/kgを頸部静脈注射を行い、蝸牛有毛細胞に障害を与えた。蝸牛神経に障害を与えるために、ウアバイン5 mM、5 μl、蝸牛内に正円窓経由で投与を行った。投与1週間後にABRで聴力の評価を行い、聾になっていることを確認した。上記薬剤を使用することにより、安定して、内耳性難聴モデルを作成することができた。移植細胞のソースとなる細胞を供給するために骨髄間葉系細胞を培養した。聴力障害を与えたモルモットに、他のモルモットから採取した、骨髄間葉系細胞の移植を行った(同種移植)。骨髄間葉系細胞は大腿からから採取の後、継代を行いPKH26で標識を行った上でモルモットの蝸牛軸に移植を行った(N =1)。移植の際にはガラス管を用いて、細胞を(通常であれば一次聴覚ラセン神経節細胞が存在する)蝸牛軸内のローゼンタール管内に注入を行い、ガラス管の保持は顕微鏡下で用手的にマイクロマニュピレータを用いて行った。細胞移植後1週後、ABR閾値の改善を認めなかった。摘出した蝸牛の組織解析は現在進行中で、生存移植細胞、神経分化移植細胞の割合を検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
聴力障害モデルについては、作成方法を確立させることができた。今後、蝸牛の組織評価を行い、蝸牛有毛細胞や蝸牛神経の状態について評価予定である。細胞移植方法について安定して細胞を生着させるための手技を確立予定である。マイクロマニュピュレータを用手的に用いてガラス管を蝸牛軸に刺入させていたが、遠隔操作可能な1軸あるいは3軸マニュピュレータを用いての蝸牛軸への細胞移植を試みる。移植細胞は、先ずは蝸牛軸への細胞移植手技を確認するために、移植後比較的生存率が高いと考えられる骨髄間葉系細胞を用いる。移植細胞へのラベルとしては低毒性生細胞蛍光ラベルとして用いられる、PKH26の他、CAG-EGFPプラスミドを移植前にリポフェクション法により導入する。動物から採取した、ラセン神経節グリア細胞、さらにiPS細胞から蝸牛神経様細胞にin vitroで分化誘導を行う。分化誘導は、免疫細胞化学、定量的RT-PCR法を用いて、蝸牛神経に特異的に発現すると考えられる神経マーカー(beta-III tubulin, NF200, Vglut1)あるいは転写因子(Prox1, Gata3)により評価する。細胞移植により、eABR、eCAP等を用いて、聴覚機能の改善を検討するとともに、組織評価を行い、移植細胞の生着の有無やシナプス形成の有無について評価を行う予定である。同時に、移植細胞として、iPS細胞から、蝸牛神経への分化誘導方法を開発する。蝸牛神経への分化誘導後、細胞の電気生理学的評価を行う予定である。さらに、移植神経細胞にチャネルロドプシン2を発現させて、in vivo光刺激により活動電位を発生させ、移植細胞の聴覚改善に与える影響を評価予定である。また同時に、in vitroで、人工内耳電極と移植神経細胞のインターフェースを検討する。
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