研究課題
肺がんの要因として,喫煙の他に都市域の大気汚染が指摘されている。さらに都市域では,ぜん息などの呼吸器系疾患が多い。これら疾病との関連が疑われる有害化学物質に,PM2.5に含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)とそのニトロ体(NPAH)がある。我が国の都市域におけるPAHやNPAHを含有するPM2.5の主要発生源として,自動車の排ガス粉塵や工場の排煙などがあげられる。一方,中国の華北や極東ロシアでは冬の石炭暖房からPAH,NPAHを含む大量のPM2.5が排出され,これらは季節と場所によって,自然由来の黄砂などと一緒に長距離輸送される。その結果,PAH,NPAHが輸送中に共存する黄砂との二次反応(触媒作用)によって,より強力な毒性物質に変化することも明らかになった。しかし,現行のPM2.5測定は粒子の大きさに基づく物理的方法のみが用いられており,健康影響との関連性を明らかにするには不十分である。そこで本研究は,PM2.5の発生源を区別し二次反応を追跡できるPAH,NPAHとこれらの酸化体等の変化体を分別定量して,これらの地域差や季節変動,経日変化と住民のぜん息やアトピー性咳嗽との関係を明らかにすることを目的にする。そこで,中国からの越境輸送大気観測に好適な能登半島(輪島市西二又)で,2004年9月~2014年8月まで実施した1週間毎の大気粉塵(TSP)の連続捕集を継続するとともに,金沢市内(金沢市山科)においても季節毎に,幹線道路(山側環状線)脇で大気粉塵(PM2.5とPM2.5-10)の分別捕集を実施した。そして,これらの試料についてPAHとNPAHの測定を開始した。また,咳嗽症状を中心に病院通院患者のアンケート調査を継続した。
2: おおむね順調に進展している
PM濃度:能登半島西二又(以下,輪島)の2014年9月~2017年7月までの試料中のTSPと金沢市山科(以下,金沢市)の試料中のPM2.5とPM2.5-10を秤量した。その結果,能登半島の大気中TSP濃度は,これまでの季節変動パターンと同じく,春高(最高値は毎年3月~5月),夏~秋低の推移を繰り返した。また,その濃度レベルも前回調査に比較して大差なかった。一方,金沢市の捕集地点は2014年までの金沢市藤江から変更された自排局である。2016年度に捕集した大気中PM2.5とPM2.5-10の濃度は2014年までの値に比較して若干低いが,その原因が観測地点の違いか経年変化かはまだ定かではない。PAH,NPAH濃度:20014年9月~2017年7月までの能登半島の大気中4~6環の9種PAH濃度は,これまでの季節変動パターンと同じく,冬高(最高値は毎年12月~3月)夏低を繰り返し,2009年以降に見られたPAH濃度の低下傾向がその後も継続していることが明らかになった。一方,金沢市における2016年度の大気中9種PAH,2種NPAH濃度は,いずれも2014年までの濃度レベルより低かったが,これまでと同様に冬高夏低の季節変動があった。金沢市と能登半島のPAH濃度を比較すると,夏は両地点の差は殆どなく,冬は金沢市が能登半島の1.5~9倍であった。一方NPAH濃度を比較すると,夏は金沢市が能登半島の8~20倍,冬は1.6~2.5倍であった。20014年までの調査に比較して両地点のPAHの濃度差が小さくなっており,このことは,金沢市内のPAH濃度は低下したが,相対的に越境輸送の寄与が無視できない割合になっていることが初めて明らかになった。
(1) PAH,NPAH分析の継続: 能登半島においては,1週間毎のTSP捕集を継続している。さらに2017年度は,能登半島と輪島市で,毎季節に1日毎にPM2.5とPM2.5-10の分別捕集を1週間実施した。これらの試料について, TSP並びにPM2.5とPM2.5-10の秤量を行い,PAH,NPAHの分析を継続する(平成29~32年度)。(2) PAHOH,PAHQ分析: これまでにPM,PAH,NPAHを測定した能登半島と金沢市の大気試料について,数種のPAHを対象にして,研究代表者らが開発した方法を用いて水酸化体(PAH OH)とキノン体(PAHQ)の定量分析を行う(平成30~33年度)。(3) 疫学調査結果との比較解析: 上述の大気捕集と並行して,既に実施している金沢大学病院に通院する患者に対するアンケート調査を継続する。即ち,咳嗽症状を有する患者を対象に,発症及び症状の増悪とその内訳,時期等に関するアンケートを継続する。そして,(1),(2)の結果及び各種気象因子の測定結果を合わせて,呼吸器系疾患の発症や症状の変化とPM,PAH類の濃度と組成の関係を統計学的に解析して,その因果関係を追跡する(平成29~33年度)。(4) ワークショップ/セミナーの開催: 本研究の経過を踏まえて,関連する物理,化学,薬学及び疫学研究者を集めたワークショップの開催を企画して解析に活かすとともに,市民向けの公開シンポジウムを企画して本研究の成果を明らかにし,まとめに繋げる(平成32~33年度)。
科研費等を用いて得られた当該研究者の関連研究者の次の項目についてリストを掲載している: 1) 研究業績,2) 受賞・表彰,3) 出版物,報道。また,センターの紹介とともに,所属する他の教員・職員についても同様のリストを掲載している。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 7件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 図書 (1件) 備考 (2件)
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