研究課題/領域番号 |
20K20309
|
配分区分 | 基金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
早川 和一 金沢大学, その他部局等, 名誉教授 (40115267)
|
研究分担者 |
中村 裕之 金沢大学, 医学系, 教授 (30231476)
鳥羽 陽 金沢大学, 薬学系, 准教授 (50313680)
長門 豪 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (50793832)
唐 寧 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (90372490)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 多環芳香族炭化水素 / ニトロ多環芳香族炭化水素 / 大気汚染 / ぜん息 / アトピー性咳嗽 |
研究実績の概要 |
肺がんやぜん息などの呼吸器系疾患の主要因の一つとして大気汚染が指摘されている。これら疾病との関連が強く疑われる有害化学物質に,微細粒子状物質(PM2.5)に含まれる多環芳香族炭化水素(PAH)やそのニトロ体(NPAH)などの酸化誘導体がある。我が国の都市のPAHやNPAHを含有するPM2.5の主要発生源は自動車や工場であるが,中国国内で大量に発生したPAHやNPAHが高濃度の黄砂と共存すると,より強力な毒性物質に変化して我が国まで長距離輸送されることもある。現在,PM2.5測定は粒子の大きさに基づく物理的方法が用いられているが,それぞれの発生源の寄与や健康影響との関連を明らかにするには甚だ不十分である。本研究では,これまでにピレン(Pyr)と1-ニトロピレン(1-NP)を測定するだけで,燃焼から発生したPM2.5の発生源の寄与を解析できる画期的な方法(NP-Method I)を開発し,更にこれを発展させてPyrと1-NPを測定するだけで,PAHとNPAHの発生源の寄与を解析できる方法(NP-Method II)を開発した。一方,研究者らは環日本海域の日本,中国,ロシア,韓国の10都市で1990年代から現在まで大気粒子状物質(TSP)を継続捕集している。また,金沢市内の幹線道路脇(山科)と住宅地(宝町)及び遠隔地の能登半島(輪島市郊外)でも,大気粒子状物質(TSP,PM2.5)の分別捕集を継続している。更に2020年度から福岡市及び遠隔地の福江島(長崎県)も併せて,一斉同時分別捕集を開始した。本研究では,これらの地点のPAH,NPAH濃度を測定して特徴を明確にするとともに,上述の発生源解析法を適用して,発生源から見た地点差や長期変動,季節変化の要因を解析する。今後は,並行して進める咳嗽症状にかかわる疫学調査研究と併せて,疾病との関連性を追求する計画である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) NP-Method Iの応用-金沢市内の大気中燃焼由来粉じん(Pc)濃度の季節変化と由来解析:金沢市内で季節毎に連続捕集したPM2.5の1-NP,Pyrを測定し,NP-Method Iを適用した結果, PM2.5に占める燃焼由来粉じんの割合は2.1%以下と小さいが,濃度には季節変化(冬>夏)があること,発生源は,自動車が31%,その他が69%であり,自動車の寄与が経年的に減少していることが明らかにできた。研究成果と環境施策における本法の有用性をいずれも国際誌に発表済み。(2) NP-Method IIの開発:高温燃焼源(自動車)と低温燃焼源(石炭燃焼)由来Pc中のPyr,1-NP組成から,大気中PAH,NPAHの両発生源の寄与率を計算する式を誘導した。本法は大気中の1-NP,Pyrを測定するだけで解析できる画期的な方法である。本法の応用で,黄砂飛来時に中国の工場で発生したPAHの長距離輸送によって金沢市内の大気中PAH濃度が上昇するが,NPAHの殆どは金沢市及び近隣由来であることを初めて明らかにできた。論文を国際誌に投稿し,審査意見(Major Revision)に従って改定した修正版を送付済。(3) 極東アジア諸国の都市大気中PAHとNPAHの長期変動,季節変化の要因解析-NP-Method I及びIIの応用:既に,日本,中国,ロシア,韓国の10都市の大気中PAH,NPAH濃度の長期及び季節変動を報告している。本研究ではこれにNP-Method I及びIIを適用して要因解析を行った結果,中・北部中国の都市の冬に極めて高濃度のPAHが石炭暖房に由来すること,日本の都市の2000年以後の顕著なNPAH濃度低下は自動車排出の減少に由来すること,極東アジア諸国のPc濃度は減少傾向にあるが石炭燃焼の寄与が依然大きいこと等を明らかにできた。
|
今後の研究の推進方策 |
(1) 大気中のPAHとNPAH測定の継続:金沢市だけでなく,これまでの環日本海域の日本,中国,ロシア,韓国の都市における大気粒子状物質(TSP)の捕集とPAH,NPAH測定を継続し,長期変動と要因の変化を予測して,今後の環境施策の立案に資する。(2) 大気中のPAH類の動態と化学反応の解析:著者らは, PAH水酸化体(PAHOH)とキノン体(PAHQ)はPAHやNPAHとは異なる生物活性を示すことを報告しており,PAH類の毒性の観点からこれらの生成と大気内動態の解明は重要である。本研究ででは,既に金沢市内で捕集したPM2.5について,PAH,NPAHと同時にPAHOHとPAHQも測定し,濃度は概ねPAH>PAHQ>PAHOH>NPAHの順で, PAHの濃度推移と相関性が高いが,NPAHとは低いことを見出している。本研究では,これらPAHOHとPAHQの大気内動態についてより詳細な追跡を行い,大気内化学反応の機序を解明する。(3) 健康影響に関する疫学調査との共同研究:金沢市内,能登半島,福岡市及び福江島における大気粒子状物質(TSP,PM2.5)の分別捕集とPAH,NPAH測定を継続し,これらの地点の濃度から大気汚染の特徴を明らかにするとともに,上述の発生源解析法NP-Method I,IIを適用して,地点差や長期変動,季節変化の要因を,発生源から詳細解析を進める。今後は,並行して進めている咳嗽症状にかかわる疫学調査研究に本研究結果を併せて,疾病との関連性を追求する。(4) 研究成果の発表:継続して国際誌への投稿発表を推進する。(5) ワークショップ/セミナーの開催:新型コロナの蔓延状況が改善すれば,関連する物理,化学,薬学,環境化学及び疫学研究者とも連携して,最終年度に研究成果を市民に分かり易く解説する機会を企画する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において、ドイツDusseldorf大学(HHU)との共同研究が発展しなかったため、これを来年度において充実させるため、次年度使用とした。
|