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2022 年度 実施状況報告書

動物活動の定量計測と非線形時系列解析による、老化を支配する力学系システムの解明

研究課題

研究課題/領域番号 20K20321
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

荒田 幸信  国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (40360482)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード線虫 / 老化 / 超長時間撮影 / 時系列解析 / ライフログ / 力学系
研究実績の概要

本研究の目的は、線虫の性成熟から死に至るまでの一生(約一ヶ月間)をビデオ撮影(5fps)し、動画から線虫の行動を計測することで、線虫の一生を支配する力学系システムを解明することである。本年度は、画像解析プログラムの精度を改善することで、線虫の運動が指数的に減衰する時期とほぼ変化しない時期があることを見つけた。我々ヒトの一生に、幼年期、青年期、中年期、老年期といったライフステージがあるように、線虫でも幾つかのライフステージ様の状態を遷移して死に至ることが明らかとなった(投稿準備中)。さらに、老化に伴う運動に指数減衰が現れたことから、その背後にはマルコフ的な体細胞ゲノム破壊があるという仮説、特にトランスポゾンによる体細胞ゲノム破壊の可能性に注目した。この仮説を検証するために、バイオインフォマティックス解析を行い、トランスポゾンの移動を仲介する135酵素遺伝子を同定した(投稿準備中)。これら135酵素遺伝子の内、10遺伝子は特にゲノム上に同じDNA配列をもつコピーが多数存在する遺伝子であった。これらの10遺伝子をfeeding RNAiによりノックダウンする準備を進めた。例えばTIR型DNAトランスポゾンの転移を仲介するトランスポゼース遺伝子(tpz)はtpz-10、tpz-139、tpz-150の3つだけで、94個のtpz遺伝子の約70%をノックダウンすることができる。また、レトロトランスポゾンの転移を仲介する逆転写酵素(rtz)については、18種類のsgRNAにより33遺伝子すべてをノックアウトすることができることがわかった。Cas9とsgRNAを発現する線虫株を構築し、ノックアウト株を樹立するためのスクリーニングを進めている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本課題で予定していた録画装置の開発については、要求性能を満たす装置を4台構築することができた。この4台の撮影装置で同時に2400匹の線虫の一生を録画することができる。撮影した動画はH265コーデックによりTIFFに比べデータを1000倍圧縮しても解析には支障がないことを確認した。この動画圧縮により、購入した100TBクラスのNASで動画データを十分に保存することができる。本課題予算で雇用した技術補佐員により、性成熟直後の線虫100匹を用意し撮影用プレートを作成する体制を構築し、効率的に撮影を進めることができている。まだ解析できていない録画も含めて、野生型、寿命変異体、RNAi線虫を合わせて現在までに、254録画(25400匹の線虫)を完了し、録画は現在も進行中である。本課題予算で共同研究を進めている客員研究員により画像解析アルゴリズムの開発と改良を効率的に進めることができている。動画の解析により、線虫の性成熟から死までに複数の定常状態と指数減衰過程があることを明らかにした。さらに、老化過程で指数減衰が現れることから背後にある分子メカニズムについての仮説を構築した。トランズポゾンによる体細胞ゲノムの破壊が個体システムの老化の原因であるとする仮説は古くから知られていたが、ゲノム上に存在するトランスポゾン遺伝子の数が多すぎることからこれまで実験で検証されることはなかった。独自のバイオインフォマティックス解析により、トランスポゾンの転移に関わる酵素遺伝子で活性を維持していると思われるコピーはわずか135コピーであることを明らかにした。これらの遺伝子をfeeding RNAi法でノックダウンすることにより仮説の検証を進めている。

今後の研究の推進方策

野生型15 plate(1500匹)の一生を録画した動画のさらに詳細な解析を進め、死に至るまでにライフステージがいくつ存在するのかを明らかにする。さらに、連続して1個体の一生の行動を追跡する画像解析プログラムを構築し、すべての個体がすべてのライフステージを遷移し死に至るのか、それとも途中のライフステージから死へ遷移する経路が存在するのかを明らかにする。さらに、寿命が変化する既存の遺伝子変異体で生死ダイナミクスの変化を明らかにし、遺伝子によるライフステージ遷移制御のメカニズムを明らかにする。さらに、トランスポゾンの転移を駆動する遺伝子で重複コピーの多い10遺伝子をfeeding RNAi法によりノックダウンした線虫の寿命を、ビデオ録画装置と画像解析プログラムで計測し、寿命と老化に与える影響を調べる。また、逆転写酵素33遺伝子のノックアウト株の樹立のためのスクリーニングを進める。このノックダウンまたはノックアウト実験により、トランスポゾンによる体細胞ゲノム破壊が線虫の老化の原因であるかどうかを明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

プロジェクト開始から4年が経過し、購入したデータサーバーのHDDで交換を必要とするものが少しずつ出てきた。プロジェクトの円滑な遂行のためには、HDDの故障は録画データを失うため最も注意すべき点である。冗長性をもつRAID構造でデータを保存し、警告のでたHDDはすぐに交換する体制をとっている。HDDおよびNAS本体の故障は予想がつきにくい。HDDの故障に備えて確保していた予算が余剰となり、次年度使用額となった。引き続き、NASとHDDの経年劣化に備えると共に、次年度は新たに1台NASシステムを構築しバックアップをとってデータ損失に備えるために次年度使用額を当てる

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Insulin signaling shapes fractal scaling of C. elegans behavior2022

    • 著者名/発表者名
      Arata Yukinobu、Shiga Itsuki、Ikeda Yusaku、Jurica Peter、Kimura Hiroshi、Kiyono Ken、Sako Yasushi
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 12 ページ: 10481

    • DOI

      10.1038/s41598-022-13022-6

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 1000匹以上の線虫の行動を一生の間ビデオ撮影するnemaLife-loggerにより同定した老化に伴う行動速度の指数減衰とトランスポゾン駆動老化仮説の実験検証2022

    • 著者名/発表者名
      荒田幸信
    • 学会等名
      第45回日本分子生物学会年会
    • 招待講演
  • [学会発表] 動物の老化に伴う活動速度の指数減衰とトランスポゾン駆動老化仮説の検証2022

    • 著者名/発表者名
      荒田幸信
    • 学会等名
      第60回日本生物物理学会年会

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公開日: 2023-12-25  

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