研究課題/領域番号 |
20K20337
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
仁木 和久 慶應義塾大学, 社会学研究科(三田), 訪問研究員 (30344211)
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研究分担者 |
緩利 誠 昭和女子大学, 総合教育センター, 准教授 (80509406)
安藤 寿康 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (30193105)
岩野 孝之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (80415645) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アクティブ・ラーニング / 構成的学習 / 行為の学習と記憶 / 脳認知科学 / 脳科学と教育の架橋研究 / 教育改革 / 生涯学習・発達 / Enactigive Brain Model |
研究実績の概要 |
人間の学びと成長、そして幸福を生物学的基盤から探究する「脳科学と教育の架橋研究フレームワーク」を創設するために、3つの脳原理(内的固有活動脳システム、皮質コラムの予測器、脳の恒常性)に基づきEnactive Brain理論を構築・提案した。その具体化モデルとして、「認知情報の脳システム」、「自己情報の脳システム」、「顕著性、恒常性の脳システム」の3つの内的固有活動脳システムと、視覚・聴覚の腹側と背側脳神経ストリームとで構成するEnactive Brain{拡張}モデルを提案し、アクティブラーニング(AL)の諸特性を脳科学エビデンスに基づきより具体的・詳細に説明・理解できることを示した。「自己情報の脳システム」の自己Selfには、感覚-運動統合の知覚ベースの自己Selfと、概念を基盤として能動的推論・予測器により構成される社会・文化的自己Selfがあることを明らかにし、教育においてはその発達段階に合わせて、2つの自己システムの状況に適合させた支援・介入や啓蒙・介入が必要であるという重要な示唆を得た。さらに、恒常性機能とWell Being、「学びと成長」との密接な関係を明らかにするなど、行動遺伝学的、脳科学的な新しい視点からAL教育のあり方を検討した。 教育学におけるALの構成主義学習理論を脳認知科学のEnactive Brainモデルの視点から再構築し、Well-beingとInvolvementを鍵概念とする「人間能力の社会的拡張モデル」の仮説的枠組を精緻化した。また、その枠組をもとに、人間能力の社会的拡張を促す諸要因の関係性を明らかにするための調査研究(Webベースの質問紙調査)を企画・実施した。 ALの構成的学習と深く関連し、また、ALで重視する創造性やインサイトに関する脳科学研究を中国心理学研究所のLuo博士との国際共同研究として実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本プロジェクトの特徴である「脳科学と教育」の架橋研究として、本研究を紹介する総説論文を出版・公開した。この研究成果をさらに発展させる為に、脳科学と教育の架橋研究としての「研究フレームワーク」の理論的な基盤を強化するためEnactive Brain理論を3つの「脳の原理」に基づき提案した。この理論の示唆に従い、拡張Enactive Brainモデルを提案し、従来の学習理論やモデルでは一貫した説明や理解が困難であった、構成的学習をはじめとして、行為スキーマや言語獲得、概念獲得など学習において重要な諸機能を脳認知科学的に検討できる研究フレームワークを構築・提案した。また、インサイトと創造性に関する脳認知科学研究を国際共同研究として実施し、国際論文を執筆・採択されるなどの成果を上げた。
このような成果に基づき、教育研究では、先行研究の成果をBrain ConstrictivismとEnactive Brainモデルの視点から再構築し、 「人間能力の社会的拡張モデル」の仮説的枠組を精緻化し、その関連する要因等を探索的に抽出するとともに、活用可能な尺度を特定することで、具体的なレベルで調査をデザインした。この成果に基づき、リサーチ会社に依頼し、Webベースの質問紙調査を行い、高校生724名、大学生934名を回答を得ることができた。 さらに、教育学習、観察学習、個体学習の3条件の脳機能の差、ならびに一卵性双生児のresting stateそれぞれMRIデータを用いて、ALが成立する条件やその状態を探究するに際しての理論的検討を行った。 しかし、コロナ禍で、調査研究やMRI実験の実施が困難となり、大学等への入構禁止など研究遂行上の重大な支障が生じるなど、多くの未消化課題を残しているため、研究最終年度の繰越を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
Enactive Brain 理論とEnactive Brainモデルを更に進化させることを研究の中核として、生徒の「学びの行為者」としての「学びと成長」、さらにはWell Beingをも、脳科学のエビデンスに基づき理解・評価することができる新しい「研究フレームワーク」を挑戦的に開発することを第一の目標として目指す。 また、「脳科学と教育」の架橋研究と位置づける本研究の目的に従い、教育現場に、Well Beingの評価基準に基づいた教育のデザインと提言を具体化することを目指す。 前年度の理論的検討に従い、教育学習、観察学習、個体学習の3条件の脳機能の比較、ならびに一卵性双生児のresting stateでのさまざまなネットワークの類似性比較を、それぞれのMRI画像データを用いて実施し、ALが成立する条件やその状態を解明する。 さらに、Enactive Brain を自然・社会環境と行為者との相互作用の中で構築された遺伝子の中間表現とみなすなどの新しい研究分野の創出についても、挑戦的研究(開発)に相応しい課題として検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に計画されたMRI実験と教育調査研究の一部が、コロナ禍のため実施不可能な状態となり、研究遂行が大幅に遅延した。コロナ禍の状況を踏まえ、研究総括の取りまとめ作業を含め、繰越研究として次年度に渡り継続して研究を実施することにした。
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