研究課題/領域番号 |
20K20338
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
矢守 克也 京都大学, 防災研究所, 教授 (80231679)
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研究分担者 |
竹之内 健介 京都大学, 防災研究所, 特定准教授 (00802604)
稲場 圭信 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (30362750)
八木 絵香 大阪大学, COデザインセンター, 教授 (30420425)
加納 靖之 東京大学, 地震研究所, 准教授 (30447940)
飯尾 能久 京都大学, 防災研究所, 教授 (50159547)
本間 基寛 一般財団法人日本気象協会, 専任主任技師 (80643212)
磯部 洋明 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 准教授 (90511254)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | オープンサイエンス / サイエンスコミュニケーション / 科学教育 / アクションリサーチ / 防災 / 減災 |
研究実績の概要 |
本研究は、「オープンサイエンス」の立場に立って、天変地異(防災・減災)に関する研究・教育のあり方を変革することを目的とした研究である。「オープンサイエンス」とは、科学研究をより開かれた活動へと変革する運動である。狭義には、より多くの人々が科学研究のデータや成果にアクセス可能とすること、広義には、従来のサイエンス・コミュニケーションを拡張して、市民を含めより多くの人々が協力し、人々から信頼される科学研究を実現するための科学論・教育論を構築することを目標とする。 本年度も、コロナ感染症の影響を受けて、予定を一部変更し、昨年度同様、天変地異に関する研究を「認識」レベルで「オープンサイエンス」化するための研究を、「観測」と「解読」の2つの側面から実施した。 「観測」では、内陸地震に関する観測研究や成果発信に地域住民が関与する仕組みに関する研究、津波避難訓練支援アプリを通して得られる住民の行動データを蓄積したデータベースの活用に関する研究、局所的な気象現象の解明に一般住民から寄せられる情報を活用する研究や教育を実施した。具体的には、京大阿武山地震観測所における地震サイエンスミュージアムに関する研究、兵庫県宝塚市、京都府福知山市などにおける豪雨災害に関するローカルエリアリスク情報の研究、高知県黒潮町での津波行動データ分析システムに関する研究などを推進した。 「解読」では、古文書の解読を通して地震、台風といった事象に関する歴史的な解明を図る研究を実施した。具体的には、古文書から古地震記録を抽出する試みとして定評のある「みんなで翻刻」プロジェクトを推進した。具体的には「みんなで翻刻」のシステムの登録者数がこれまでに目標の半数以上の7900人に到達し、翻刻された文字数も昨年から500万字増えて1882万字に上った。 なお、これらの成果の発信にもつとめ、査読学術論文を複数公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「天変地異のオープンサイエンス」運動の柱として位置づけた「観測」と「解読」のうち、「観測」については、まず、阿武山地震観測所のサイエンスミュージアムプロジェクトが、新型コロナ感染症の影響を受けた。一般来訪者の受入を制限したため、市民ボランティアによる観覧活動は、2年続けて当初予定よりも減速を余儀なくされた。他方で、市民参画型の地震観測活動と波形データの読み取りプロジェクトや小学生を対象にした地震観測活動への参加型教育プロジェクトは順調に進捗し、全体として研究はおおむね順調に進んでいる。 また、「観測」のうち、豪雨災害に関する避難トリガー情報を、住民参画型で運用するプロジェクトも、兵庫県宝塚市、京都府福知山市などで順調に推進している。いずれについても、ニュース番組や解説番組、全国紙に何度も取りあげられ、大きな成果を上げている。この点でも順調に研究は進んでいる。高知県黒潮町での津波避難訓練から得られる行動データを用いたオープンサイエンスプロジェクトも、その成果を複数の学術論文で刊行するなど順調に進んでいる。 さらに、「解読」では、古文書から古地震記録を抽出する試みとして定評のある「みんなで翻刻」プロジェクトで、登録者数がこれまでに目標の半数を超える7900人に到達し、翻刻された文字数もさらに500万字増えて1882万字に上り、順調に研究が進捗している。 あわせて、これらの取り組みをサイエンスコミュニケーションやシチズンサイエンスの観点から理論的に位置づける研究も進捗し、その成果をオープンサイエンスに関する査読付き英語論文として公刊した。なお、コロナ感染症の影響により、前年に引き続き、「共感」と「救済」をキーワードとする研究は次年度以降に繰り延べた。以上より、本研究は、全体として、おおむね順調に進展していると結論づけた。
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今後の研究の推進方策 |
「観測」のうち、阿武山地震観測所サイエンスミュージアムプロジェクトでは、同プロジェクトの推進母体の組織化(NPO法人化)を完了させた。これにより、シチズンサイエンスの要となる学と民のセクターの橋渡しの部分の組織基盤が形成され、今後、安定的かるスムーズな研究と実践の推進が期待される。 さらに、これまで、コロナ禍の影響を受けて、「観測」と「解読」を中心に研究を進めてため、次年度からは、天変地異のオープンサイエンスの第3、第4の柱をなす「共感」と「救済」の側面での研究にも本格的に取り組む。「共感」では、上述の「観測」と「解読」活動を通して、科学と社会(科学者と市民)との信頼関係を再構築するための社会的制度を確立するための研究を開始する。具体的には、熟議民主主義、サイエンス・カフェなど、近年脚光を浴びてきた参加型のサイエンス・コミュニケーションとオープンサイエンス運動との異同について理論的かつ実践的に検証する。「救済」では、天変地異からの救済・再生へ向けて、宗教施設の防災面での活用などに関する研究成果をオープンサイエンスの枠組みに新たに位置づけるための研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由は、旅費が計画よりも大幅に少なかったためである。コロナ禍の影響により、研究代表者および分担者の対面での研究打ち合わせのための旅費支出、また、代表者および分担者がオープンサイエンスに関するアクションリサーチを実施している現場で対面で調査等を実施するための旅費支出が計画よりも少なくなった。なお、この点は、リモートでの活動に切り替えたため、研究そのものの進捗に対する悪影響は最小限にとどめている。 この分の経費は、本年度、オープンサイエンス運動に関する資料収集(物品費)、および、サイエンスミュージアム等での研究を支援する活動に要する人件費・謝金等に充当し、有効かつ適切に執行するようつとめた。 来年度は、サイエンスミュージアムに関する研究、および、市民参画型ビッグデータを用いたオープンサイエンスに関する研究において、展示手法の開発、および、データベースの整備・開発等に関する業務発注を行う計画で、次年度使用額はそのための経費に充当する予定である。
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