本研究では強い光・高強度テラヘルツ波励起により、準粒子、集団励起、フォノンといった低エネルギー励起を強励起し、電子間相互作用の変調、準粒子分布の瞬時変化を介した量子クエンチ実験を行うことを目指した。超伝導と電荷密度波(CDW)やスピン密度波といった多重の秩序が競合・共存する系(遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)系、鉄系超伝導体、銅酸化物高温超伝導体)を対象に、量子クエンチの手法を導入することで、平衡状態では発現し得ない隠れた秩序相が発現している兆候を捉えることに成功した。TMD系3R-TaSe2ではCDW相において、CDWの秩序変数の振幅モードをテラヘルツ波で強励起すると、平衡状態では観測されない新たな絶縁体相に転移することを明らかにした。鉄系超伝導体FeSe0.5Te0.5では、光パルス照射により超伝導が増強することを光ポンプテラヘルツプローブ分光による過渡光学伝導度測定、および超伝導ヒッグスモードに起因するテラヘルツ第三高調波の二つの独立な測定から明らかにし、過渡光学伝導度スペクトルから超伝導増強が鉄系超伝導体のバンド間ペアリング相互作用の増強効果に起因している可能性が高いことを示した。ストライプ秩序を発現するLa214系銅酸化物高温超伝導体では、中赤外光励起により電荷秩序とスピン秩序の破壊と回復ダイナミクスが異なる時間領域で生じることを見出し、電荷秩序とスピン秩序、超伝導との競合・相関を調べる新たな手掛かりを得た。Y123系銅酸化物高温超伝導体の光誘起超伝導の検証を行った。超伝導を示唆する周波数に反比例する光学伝導度虚部の振る舞いが光励起下で発現することを確認し、その状態でヒッグスモードや層間ジョセフソン結合に起因する非線形テラヘルツ応答が現れないことを見出し、光励起により平衡状態の超伝導とは異なるコヒーレントな電子状態が発現している可能性が高いことを見出した。
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