研究課題/領域番号 |
18H05325
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
村松 憲仁 東北大学, 電子光理学研究センター, 准教授 (40397766)
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研究分担者 |
鈴木 伸介 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 光源基盤部門, 主幹研究員 (00416380)
伊達 伸 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 光源基盤部門, その他 (10372145)
清水 肇 東北大学, 電子光理学研究センター, 名誉教授 (20178982)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 光子ビーム / 逆コンプトン散乱 / 軟X線 |
研究実績の概要 |
ニュースバルのビームライン07Aにおいてアンジュレーターから放射される軟X線を反射・集光するため、SHADOWによる光学シミュレーションを行い、大きさ50 mm四方、曲率半径16.7 mの円筒面状ミラーを設計した。また、熱負荷計算を行い、ミラー基板として石英ガラスを使うことを決定した。これらの設計を基に、低膨張ガラスZERODURを用いてミラー基板を製作した。92 eVの軟X線を反射するため、ナノメーター程度の面精度・面粗さが必要であり、ナトリウム・ランプによるニュートン・フリンジ試験などで目標が達成されていることを確認した。 一連の軟X線反射試験を進めていくために必要となる真空チェンバー(多層膜ミラー用チェンバー、軟X線モニター用チェンバー)の整備を、ニュースバルのビームライン07Aで行った。当該ビームラインは稼働中の共用ビームラインであり、本研究と両立するためのデザインを検討した上で据付け作業を行った。真空排気系を整備し、必要とされる超高真空(約1E-6 Pa)を達成した。軟X線のプロファイル測定を行うワイヤー検出器の取り付けも行い、駆動試験を行った。 軟X線とニュースバル蓄積電子の逆コンプトン散乱で生成するガンマ線ビームの測定準備も進めた。ニュースバル・トンネル内でガンマ線検出器系を設置するための鉛遮蔽および架台を据え付けた他、トンネル外でデータ収集するために信号及び高電圧のケーブル約70本を敷設した。 今後本研究を基礎にして高エネルギーガンマ線ビームを用いたハドロン物理を展開するため、大阪大学RCNP研究会(3月4~5日)に協賛し、本研究に関連する講演・議論をアレンジした。関連する実験研究者との連携や理論研究者との物理の議論など、本研究後の進展を見据えた取り組みを立ち上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光学シミュレーションと熱負荷計算による十分な検討を経て、軟X線反射の鍵となる多層膜ミラーの形状設計とその基板の製作を完了することができた。合成石英ガラス製の基板を水冷する程度でアンジュレーター光からの入熱を除去できる他、使用するビームラインの特徴により、反射面を平面に近い曲率の円筒面状とする必要性が分かった。ナノメーター精度で円筒面を研磨することは、球面などと比べて技術的に非常に難しいことが判明したが、本研究に協力的な研磨業者を見つけ、比較的安価にガラス基板の製作を終えることができた。多層膜コーティングを施す段階まで進むことができなかったが、この工程は技術的に確立されており、高精度の基板製作が完了していれば大きな困難はない。次年度の軟X線反射試験に向けて、多層膜ミラーの準備については概ね計画通りに進んでいる。 また、本研究で必要な機器を収納する真空チェンバー類の製作と設置作業を完了することができた。上記の多層膜ミラーの他に必要な自動ステージ類とコントローラーの準備が整い、これらを超高真空で格納するチェンバーが使用ビームラインにインストールされた。更に、入射・反射X線の強度とプロファイルを測定するための検出器チェンバーも据え付けることができ、使用ビームラインで要求されている真空度の達成も確認された。今後の軟X線反射試験を推進する上で必要な基本整備を終えることができ、当初の想定以上の段階まで進むことができた。多層膜ミラー基板の形状決定が遅れたため、ミラーホルダーの製作は次年度に持ち越したが、時間と労力のかかるビームライン改修を先に終え、真空チェンバー内の細部整備を残すのみとなっている。 並行して、ニュースバル・トンネル内にガンマ線検出器系の準備を始めることができ、次年度に計画する一連の試験スケジュールを鑑みて、本研究は全体として順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、軟X線反射の光学系を一通り整備し、実際にアンジュレーター光の反射試験を推進する。そのため、低膨張の合成石英ガラスで製作したミラー基板にMo/Si多層膜のコーティングを行うほか、超高真空対応のミラーホルダーを製作する。これらの光学部品の準備が整った段階で、設置済みの多層膜ミラー用真空チェンバー内に精密自動ステージと共に据え付け、動作試験を行う。また、やはり設置が終了している軟X線ワイヤー検出器の読出し系を整備し、ピコアンメーター等で入射・反射X線の強度およびプロファイルが測定できるようにする。以上の光学系整備を半年程で終え、次年度後半は、アンジュレーターから放射される軟X線を多層膜ミラーで反射し、反射X線が想定通りの反射率と拡がりでニュースバル蓄積リングに戻されているかを確認する。その際、反射X線の光軸を確認する術が必要であり、デマルケストを用いた蛍光板モニター系を製作し、既設の軟X線検出器チェンバーへインストールする。 並行してガンマ線検出器系の整備を継続し、PWO電磁カロリメータ―及びビーム・プロファイル測定用のファイバー検出器を設置する。データ読出し系を構築し、初期試験として残留ガス制動放射によるガンマ線ビームを測定する。これら一連の試験により、逆コンプトン散乱により生成するガンマ線ビームの強度、エネルギー・スペクトル、ビーム・プロファイルのエネルギー依存を測定する手法の確認作業を行う。 以上の試験結果を踏まえて、軟X線と蓄積電子の逆コンプトン散乱による高エネルギーガンマ線ビームの生成実証実験を最終年度に行う。
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備考 |
本科研費による研究のホームページを立ち上げた。
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