研究課題
電子蓄積リングに設置されたアンジュレータから軟X線を得て反転反射・再入射し、その逆コンプトン散乱で飛躍的に高エネルギー化した光子ビームを生成する新光源の実証実験を最終段階まで進めることができた。特に、実験成功の鍵となる軟X線反転反射用のMo/Si多層膜ミラーに対する実用的知見が得られた。本研究は“ニュースバル”蓄積リングのBL07Aに整備した大型真空チェンバー内にこのミラーを設置している。92 eV付近の軟X線をアンジュレータから放射して60~70%の高反射率を持つ多層膜ミラーで反転反射するが、アンジュレータの高次放射光の入熱により真空中でミラー温度の上昇が懸念されていた。このような温度上昇は、多層膜の損傷に繋がるだけでなく、コンプトン散乱点で軟X線を集光するために高精度で凹面加工しているミラー基板の歪みをもたらす。2021年度の前半は、大型真空チェンバーの側面に赤外線を透過するZnSe窓を2か所に取付けて内部温度を放射温度計で測定可能にすると同時に、実際にアンジュレータからの放射光を多層膜ミラーに照射して温度上昇試験を行った。その結果、これまで使用していた低膨張ガラス製のミラー基板から水冷式ミラーホルダーへの熱伝導が悪く、多層膜ミラー表面が摂氏200度まで上昇することが分かった。これを受けて多層膜ミラーの基板材を再検討した上でシリコン製と決め、2021年度後半にこれまでより面粗さ・面精度ともに改善された凹面ミラー基板を製作した。反射面は、低膨張ガラス基板製作の際と異なり、機械研磨を行った。この研磨は技術的に難しく、想定より長い半年の期間を要した。最終的にMo/Si多層膜の等周期形成を行うところまで進め、一連の新光源技術開発を終えた。新しく製作した多層膜ミラーはインジウムシートを挟んだ上でミラーホルダーへ設置し、早期にコンプトン散乱実験を行うスケジュールとなっている。
本科研費による研究を紹介するホームページを運用し、成果を公表している。
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ELPH Annual Report (Tohoku Univ.)
巻: 2020 ページ: 49-52
LASTI Annual Report (Univ. of Hyogo)
巻: 22 ページ: 29-32
http://www.rcnp.osaka-u.ac.jp/~mura/kaitaku/