研究課題/領域番号 |
18H05326
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
江澤 元 国立天文台, アルマプロジェクト, 助教 (60321585)
|
研究分担者 |
松尾 宏 国立天文台, 先端技術センター, 准教授 (90192749)
藤井 剛 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (30709598)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
|
キーワード | 光子計数 / テラヘルツ / 宇宙物理観測 / 超伝導検出器 |
研究実績の概要 |
本年度は、本研究課題に用いる実験装置である極低温冷却システム、および超伝導検出器の開発を推進した。極低温冷却システムは4 K機械式冷凍機とヘリウム4吸着型冷凍器の組み合わせにより0.8-1 Kの極低温環境を作ることで超伝導検出器を冷却し、テラヘルツ光子計数の実現を目指す。機械振動の影響を極力抑えるために、4 Kパルスチューブ冷凍機を導入するとともに、この冷凍機に対応したクライオスタットを新たに設計し、製作を開始した。クライオスタットの製作にあたっては、構成部品の製作のみを外注して、組み立ては国立天文台にて自ら実施することで経費節減を図った。クライオスタットの外装部を組み立てて真空試験を実施した結果、真空断熱に十分な真空度の達成を確認できた。冷却ステージや吸着冷凍器は次年度以降に引き続き実施する。 超伝導検出器については、アンテナ結合型の超伝導SIS検出器の開発と、その性能評価を行った。SIS検出器の性能の要である極低温下でのリーク電流を、既存の液体ヘリウムクライオスタットと吸着冷凍器を組み合わせた測定系を用いて評価し、0.4 Kの極低温下で 1-2 pA を達成していることが確認できた。これはテラヘルツ光子計数を実現するのに十分低いリーク電流である。このリーク電流は素子の冷却温度を上げると増加するが、最終的にはこれをヘリウム4吸着冷凍器の冷却温度である0.8-1 Kまで延ばすのが目標である。本年度はSIS素子の薄膜の厚さを調整し、0.8 K近くまで伸ばすことができた。次年度以降も改良を継続する。 開発したSIS検出器のテラヘルツ光に対する応答を、黒体炉を用いて調べた。その結果、テラヘルツ光へ感度をもつことは確認できた一方、光学特性に改善の余地があることが判明した。次年度以降の開発および改良の課題である。これらの結果は受信機の国際会議や日本天文学会春季年会で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
パルスチューブ冷凍機対応のクライオスタットの製作については、設計から真空試験までは順調に進んだ。しかし、設計に時間を要したこと、また国立天文台MEショップが想定以上に混雑し作業日程の調整が必要だったこと等により、ここまでに当初の予想以上の時間がかかり、極低温部の組上げは次年度送りとなった。超伝導検出器に関しては、アンテナ結合の超伝導SIS検出器を開発し、極低温下で1-2 pAの低リーク電流が実現できたこと、および当初の予定より先行して光学試験を開始できたのは大きな進展であった。一方、動作温度および光学特性に課題が判明し、次年度以降も開発を継続する。光子計数のための読み出し回路については検討や評価が遅れており、次年度以降に更に強力に推進する。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、主として前半の2年間で実験システムを構築する。初年度の進捗をうけ、極低温冷却システムを確立するとともに、読み出し回路を含めたテラヘルツ帯の光子を高速で受ける超伝導検出器の開発を推進する。 超伝導検出器については、初年度の開発および評価により明らかになった課題を克服すべく改良を継続する。産業技術総合研究所のCRAVITYにおいて超伝導検出器を引き続き開発し、国立天文台においては、開発した検出器を極低温に冷却し、黒体炉やサブミリ波フーリエ分光器等を用いて光学試験を実施する。 極低温冷却システムは、クライオスタットの外装部が完成したことを受け、内部の極低温ステージの構築を進める。ここに超伝導SIS検出器や低温増幅器など組込み、外部の常温回路で信号を読み出せるようにするが、特にパルスチューブ冷凍機起源の振動や電磁ノイズについて慎重に確認しながらシステム構築を進める。また並行して、光子計数実験にむけて、光学系の検討や構築、読み出し回路、サンプラーの検討や開発にも取り組む。 これらの研究開発の成果を、関連分野の研究者が集う国際会議や国内の学会年会において発表し、検出器システムの開発にフィードバックをかけるとともに、光子計数技術により新規に開拓される精密観測手法に関しても議論する。
|