研究課題/領域番号 |
20K20345
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
江澤 元 国立天文台, アルマプロジェクト, 助教 (60321585)
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研究分担者 |
松尾 宏 国立天文台, 先端技術センター, 准教授 (90192749)
藤井 剛 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (30709598)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光子計数 / テラヘルツ / 宇宙物理観測 / 超伝導検出器 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、高速の超伝導SIS検出器を用いてテラヘルツ光子計数を実現し、光子統計の概念を宇宙物理観測手法に導入することを目指す。本年度は前年度に引き続き、主として超伝導SIS検出器の開発、極低温環境の構築、および極低温読み出し回路の開発を進めた。 超伝導SIS検出器を進めてきたが、これまでは検出器感度の中心周波数が目標の500 GHzより高周波側にずれており、光学効率が低いこと課題であった。そこで検出器デザインや製作パラメータの調整などの改良を実施した結果、ほぼ目標の周波数域に追い込むことができ、それに伴って光学効率も向上させることができた。これを受けて、テラヘルツ光子検出器として動作させるために、静電容量の低減など、デザインの設計改良を進めている。これら一連の進捗と成果を国際会議で発表した。この検出器は0.8 Kの極低温に冷却して光子検出器として動作させる。そのために、パルスチューブ冷凍機とヘリウム4吸着冷凍器を組み合わせたクライオスタットに極低温環境の構築を進めている。本年度は特に計算機による自動制御やリモート計測環境の整備を推進した。またクライオスタットの熱ストラップを拡充改良し、冷却性能を向上させた。これにより、光子計数実験に必要となる0.8 K極低温環境、およびその自動制御実現の見通しを得ることができた。極低温読み出し回路は、電界効果トランジスタを用いたソースフォロワ回路で構成するが、計画当初に想定した特殊な回路素子が入手困難になったことが判明している。そこで従来より用いているガリウム砒素の接合型電解効果トランジスタ(GaAs-JFET)に加え、ヘテロダイン受信機で実用実績のあるガリウム砒素の高電子移動度トランジスタ(GaAs-HEMT)の極低温特性を評価し、これらを組み合わせる構成で初段の読み出し回路を設計した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の影響により研究活動に様々な制約を受けている。実験室の作業や対面の打合せを想定通りにすすめることが困難であった。また世界的な流通供給網の混乱等もあり、液体ヘリウムや製作資材、部品類のコスト高騰や入手性の問題の影響も受けた。また本研究課題前半部分の研究も遅延しており、補助金が繰り越されている事情もあって、2021年度の研究進捗がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
パルスチューブ冷凍機と吸着冷凍器を用いたクライオスタットによる極低温環境の構築を急ぎ完了させる。ヘリウム4吸着冷凍器を用いた極低温環境を早急に確立し、超伝導SIS検出器を組み込んだ試験を実施する。平行して、クライオスタット内外の光学系の設計、製作も推進し、読み出し回路も確立させ、光子計数実験の試験装置を完成させる。これらを引き続き強力に推進し、「光子統計」を用いた精密測定手法の確立を目指す。引き続き不安定な社会情勢の影響は受けると思われるが、外注を減らして自ら機械工作や回路製作をする等でコスト低減の努力をするとともに、測定環境のリモート化や自動化を引き続き推し進めて、測定や評価の効率を上げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響でさまざまな影響を受けており、想定通りに研究をすすめることが困難であった。また超伝導SIS検出器の開発やクライオスタットの冷却性能などに想定外の問題が発生した。本研究課題前半部の研究が遅延し、補助金が繰り越されていた事情もあって、研究期間を延長し、当初予定していた研究や開発を次年度にも実施することとなった。次年度使用分は、光子計数実験のためのクライオスタットの改造、光学部品の購入、読み出し回路の開発と整備、超伝導SIS検出器の製作、成果発表などに使用する予定である。
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