研究課題/領域番号 |
18H05329
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
丸山 茂夫 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90209700)
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研究分担者 |
千足 昇平 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (50434022)
項 栄 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20740096)
井ノ上 泰輝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (00748949)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 成長メカニズム / ラマン散乱分光法 / 同位体ラベリング |
研究実績の概要 |
単層カーボンナノチューブ(単層CNT)は原子レベルで多様な構造を取り,異なる直径や巻き方(カイラリティ)を持つ.さらに,構造によってその物性が変化することが知られており,その為に原子レベルで構造を制御した合成法が,単層CNT応用において必要不可欠である.本研究課題では,単層CNTの成長メカニズム解明に向け,同位体炭素(13C)を合成中に添加,ラベルとして用いる手法を採用し,個々の単層CNTの成長の様子を詳細に観察した.単層CNTの炭素源となる分子を高温度条件で供給することで,直径数nmの金属微粒子から単層CNTは析出するように成長(CVD成長)することが知られており,ここでは炭素源としてエタノールを用いた.また,同位体炭素の空間分布の計測には,走査ラマン散乱分光イメージ計測を用いた. 結果,単層CNTはエタノール供給後,数分した後にその成長が開始すること(成長待機時間),成長は10~20分程度の時間に限られること(触媒活性寿命時間)が明らかになった.また,単層CNTの成長速度は成長中ほぼ一定であり合成温度に強く依存すること,さらに合成中に一時的にエタノール供給を止めると成長は停止し,供給再開によって再び成長する単層CNTが存在することを新たに発見した.エタノール停止中における条件を変化させることで成長開始をする場合としない場合があること,さらには水蒸気を含む場合は単層CNTが水分子によってエッチングされ短くなることも分かった.これらは,これまで経験に基づいて行われることが多かった単層CNT合成技術開発研究において,CVD成長メカニズムの詳細な情報を与える非常に重要な知見と言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の予定であった,同位体ラベリング法を用いた単層CNT成長観察の実現に加え,単層CNTの成長の様子を詳細に分析することに成功した.これまで,1本の単層CNTまたは非常に多数の単層CNTの平均的な成長に関する情報しか実験的に得ることができなかった.これに対し本手法は個々の情報を多数の単層CNTから得ることのできる.さらに,基板上に配向した単層CNTを用いることで,非常に効率よく成長機構の分析を行うことに成功した.また,単層CNT合成において成長促進のためによく添加剤として用いられる水素や水分子の役割を明らかにするため,炭素源(エタノールガス)を一時的に停止する実験を行った.当初予想していた以上に,添加剤の影響が明確に単層CNT成長において現れることが分かった.この一時中断する手法を用いて単層CNT成長機構の全貌を解明していきたいと考える.
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今後の研究の推進方策 |
前年度の実験結果を踏まえ,同位体ラベリング法を用いた単層CNT成長分析を進める.特に合成中に一時的にエタノールガス供給を停止する手法だけでなく,供給開始前の条件を吟味することでこれまで謎であった成長待機時間の原因の解明を目指す.さらに,単層CNTの大量合成法確立に向け,最大の課題である触媒寿命についても検討を進めて行く. 同時に透過型電子顕微鏡(TEM)による触媒金属微粒子観察を進め,TEMでの観察結果と合成実験との関連性を明らかにしていく.また,実験だけでなく分子動力学計算を用いた原子レベルでの成長機構解明も進めて行く.これまで,どのような条件で単層CNTが成長するかの知見を蓄積してきており,これを踏まえて単層CNT構造決定プロセスの解明を目指す.
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