研究課題/領域番号 |
18H05340
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
宇田 哲也 京都大学, 工学研究科, 教授 (80312651)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | チタン製錬 / ハンター法 / その場観察 |
研究実績の概要 |
チタンは現在、クロール法と呼ばれるマグネシウム還元法で製造されているが、クロール法は商業化以来、70年間大きな進展のない古典的プロセスである。しかし、チタンは資源が豊富で軽量で耐食性能に優れ、燃費に優れた飛行機、自動車などの移動体や海洋建造物、化学プラントになくてはならない素材である。また、近年では、3Dプリンターを利用した金属部品の新しい製造法の研究が進められ、チタン粉を出発とする次世代の製造業の確立にも期待がかかる。
TiCl4のナトリウム還元はマグネシウム還元以外では唯一の大量生産法として工業化された製錬法である。その特徴として鉄汚染の少ない粉末状のチタンが得られることが報告されている。近年の粉末市場の拡大を考慮すると、このような特徴は大変興味深い。
本年度は、X線装置内において、溶融金属ナトリウムを設置した反応容器セルに、液送ポンプを用いTiCl4を供給し、ナトリウム還元によってTiCl4が還元される様子をマイクロフォーカスX線透過観察法で観察した。各種反応温度で実験を行い、金属チタンが生成する様子を確認した。なお、TiCl4は、大気中に漏洩すると、水分と反応し、HClガスが生成する。よって、万が一、漏洩が起こったとしても、HClガスを強制排出するシステムを用意した。さらに、そのような漏洩が起こらないような、緊急リーク経路の確保も既に行っている。研究では、マグネシウム還元によるその場観察実験の結果などと比較し、粉末チタン形成のメカニズムの考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、SUS430製の反応容器内に充填した金属ナトリウムにTiCl4を滴下した際の反応の様子、副生される塩化物の挙動をマイクロフォーカスX線透過法によってその場観察を行った。その場観察実験後は、反応容器セル全体を樹脂埋めして垂直に切断し、反応部位の把握、反応で生成したチタンの形態をEPMAなどで観察した。これらの結果をもとに反応メカニズムについて考察を行った。 得られた知見は以下のようである。その場観察により、ナトリウム還元においても、溶融ナトリウムはSUS430に対して高い濡れ性を示し、還元開始前からナトリウムは容器壁面上部まで濡れあがることが判明した。副生されるNaClはナトリウムの水平液面で液だまりを形成した後に沈降した。マグネシウム還元と比べて、副生成物のNaClは速やかに反応場より離脱し、NaClが反応の阻害要因にはなりにくいことがわかった。このため、容器壁面だけでなく反応容器中央部でも積極的な還元反応が進行していたと推測される。また容器壁面で生成したNaClは容器壁面を伝って連続的に沈降して容器の底部に堆積する様子が観察された。これは、ナトリウム還元の大きな特徴である。これはNaClの容器材質であるSUS430への濡れ性がNaよりも高いという特異な性質に起因すると推察される。 これらのことが要因となり生成するチタンの形態に違いが生じると推察された。すなわち、マグネシウム還元では、容器壁面でのみ優先的にチタンが還元されスポンジ状のネットワークが発達した形状が得られやすいのに対し、ナトリウム還元では、容器中央部でも還元反応が進行し、ここで生成したチタンは溶融NaClとともに沈降し、粉末状のチタンが得られやすいのではと考えた。
このように当初予定していいた反応メカニズムの解明が完了した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでの、マイクロフォーカスX線透過観察などの研究の知見を生かし、最終的には、マグネシウム還元とナトリウム還元のメリットを組み合わせたプロセス考案に取り組む予定である。
ただし、今年度の実験で金属ナトリウムの実験後の取り扱いに困難さを実感した。実験室レベルでは、一般的に、金属ナトリウムは、無水エタノールでアルコキシドに失活させ、その後加水分解反応と中和反応で無害化するが、実験で扱うナトリウム量が多いとアルコキシドへの反応で発生する熱のため、このような方法では失活処理は困難であることがわかった。
そこで、今後は、ナトリウムそのものを使用せずに、ナトリウム還元の特徴が発現する反応様式を工夫し、より効率的な金属熱還元法の提案に取り組む。
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