研究課題/領域番号 |
18H05343
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
新井 豊子 金沢大学, 数物科学系, 教授 (20250235)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
キーワード | ナノ水膜 / 準液体性 / 固液界面 / 周波数変調原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、大気中の水蒸気から固体上に吸着した数ナノメータ厚の水膜(ナノ水膜)は、25℃の室温でも固体的で安定な秩序構造を持つことを発見し、ナノ水膜のバルクの液体(水)とは異なる性質を準液体性と呼び、本研究を開始した。本研究開始前に、マイカ劈開面に存在するK+イオンは、バルク水に対して容易に溶解するが、ナノ水膜にはほぼ溶解していないことを明らかにした。本研究において、易溶性イオン結晶であるKBr結晶のナノ水膜に対する溶解および、FM-AFM探針からのKBr結晶に対する圧力による溶解について新規な知見を得た。 KBr(001)表面上に、3nm程度以上の厚みのナノ水膜が形成されると、KBrは溶解する。この状態をFM-AFMで観察すると、局所的に頻繁に溶解・析出を繰り返す動的過程を観察でる。しかし、約2 nm厚のナノ水膜内では、長時間FM-AFM観察を続けても、溶解・析出現象は観察されなかった。2nm程度の厚みのナノ水膜は、溶媒イオンを溶解・拡散させる能力が低いことが分かる。しかし、この2 nm厚のナノ水膜内で、FM-AFM探針をKBr(100)表面よりKBr内部に押し込むと、1原子ずつ溶解することを見いだした。ナノ水膜中から、KBr内部に向かって、探針を押し込み、Δf-z曲線を取得すると、ナノ水膜中で、水和層が1層ずつ剥がれることで見られるΔf-z曲線の振動が、KBr結晶内部に入っても続き、戻りの曲線でも同様に振動特性を示した。すなわち、探針圧力によって、KBrは1原子ずつナノ水膜中に溶解するが、圧力がなくなると、直ちに元の結晶状態に戻る。KBr上に水1分子層だけ吸着した状態では、AFM探針を非常に強く押し込むと、結晶は破壊されて穴が開くが、それが元に戻ることはない。さらに、KBr最表面層よりも下層のKBr(100)面を原子分解能で観察することもできた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、専用のグローブボックスを設計製作する計画であったが、FM-AFM/STM本体を高湿度環境に長時間暴露するため、探針を試料に近づけるための慣性駆動型位置決め機構の劣化が早く、その修理・改善のために予算及び時間を要したためグローブボックスの作製は取りやめた。この改善および、恒温槽の大きさに合わせたアクティブ微小振動制御システムを導入することで、振動由来のノイズが大幅に低減でき、また、計画のグローブボックスを用いるよりも、以下の様に開閉が容易な恒温槽で湿度制御をした方が実験効率的に良かったと判断できる。除湿機を導入して実験室内湿度を20%程度まで下げ、FM-AFM/STM試料近くの温湿度計で湿度をモニターしながら恒温槽内のシリカゲルの量および水蒸気の流入量を制御する。これにより、迅速に湿度を20%から80%まで制御性良く変化させ、特定の湿度で維持することもできる。また、ロックインアンプを購入し、自作の力センサーの湿度変化によるQ値の変化をその場で計測できるようになった。 本年度予定した、易溶性基板上のナノ水膜の溶解・析出能力について、実績の概要で述べたように、新規な知見を得て、Appl. Phys. Exp.誌に” Layer-by-layer dissolution and recovery of KBr(001) surfaces covered with a nanometer-thick water film caused with a pressing tip controlled by frequency modulation atomic force microscopy”が掲載された。 Si基板を超純水で洗浄後の帯電現象を、本装置で捉えることに成功した。帯電状態を表面像観察と同時に画像化するために、音叉型水晶振動子型力センサー用プリアンプを改造した。
|
今後の研究の推進方策 |
1.大気型周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)/走査型トンネル顕微鏡(STM)の改良 Siウエハー表面の帯電現象を捉えるため、ウエハー断面部から、電位制御可能な試料ホルダーを作製する。さらに、2台のPLLを用いて、FM-AFM像取得時にバイアス電圧をCPD電圧に制御するケルビンプローブフォース顕微鏡法(KPFM)を導入して、表面構造と、表面電荷状態をナノメータスケールで同時取得する。 2. Si基板洗浄における帯電現象の解明 Siデバイス製作過程でSi基板を超純水で洗浄後に、基板が帯電することがある。Si基板には、ナノ水膜が形成されていると考えられる。帯電したSi基板を湿度制御環境で、FM-AFM/ KPFM観察し、帯電状態を調べ、ナノ水膜の特質および帯電起源を解明する。
|