周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)は、探針試料間に働く保存力の距離微分に関係する力センサーの共振周波数変化(Δf)を検出して試料表面を画像化するプローブ顕微鏡である。さらにFM-AFMは、非保存相互作用による散逸エネルギーも同時に計測できる。本研究では、KBr(100)劈開面を高湿度環境におき、KBr(100)上に数ナノメータ厚の極薄水膜(ナノ水膜)を形成し、KBr/ナノ水膜界面の水和層の特性をΔfおよび散逸エネルギー変化から解析した。FM-AFMを用いた原子スケールの散逸エネルギーの解析は、原子スケールの摩擦、粘弾性、構造変化など従来原子レベルでは解析できなかった特性を解析できる可能性を持つ。しかし、液中FM-AFMでは、力センサーが液から受ける摩擦によりQ値が低減し、加振機構から力センサーへの伝達関数がスプリアスなどの影響により一様ではないなど、散逸エネルギー信号による固液界面の水和構造解析は注意を要する。一方、本研究では、力センサーは大気中にあり、探針の先端のみがナノ水膜に浸った状態であるため、Q値は数百を維持し、実験で用いた周波数範囲でスプリアスの影響がほぼ無いことを確認して実験したので、得られた散逸エネルギー信号は信頼性が高いといえる。KBr(100)/ナノ水膜界面で、力-距離曲線および、散逸エネルギー-距離曲線は、どちらも水分子の直径程度の周期で振動特性を示した。これらのデータから、水和層の局所的密度分布、粘弾性を考察した。 KBr(100)面やNaCl (100)面への水分子の初期吸着でも水分子の島状構造を観察したことはない。同じアルカリハライド結晶でもLiF(100)面には、水分子が島状成長する様子を捉えた。アルカリハライド結晶上への水分子の吸着機構を考察した。
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