研究課題/領域番号 |
20K20360
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今野 巧 大阪大学, 理学研究科, 教授 (50201497)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イオン結晶 / 超分子化学 / 結晶工学 |
研究実績の概要 |
イオン結晶中において、各イオン種はクーロン相互作用により強く固定され、通常、自由に動き回ることはできない。本研究では、金属超分子をベースとするナノ構造化学を駆使して、金属イオン種が結晶格子中を自由に動き回るように設計した「イオン性金属超分子ナノ構造体」の開発を進めている。まず、これまでと同様の手法により、L-システインをもつコバルト(III)錯体配位子、ロジウム(III)錯体配位子、およびイリジウム(III)錯体配位子と亜鉛(II)イオンとの反応を行い、アニオン性のCoIII4ZnII4八核錯体、RhIII4ZnII4八核錯体、およびIrIII4ZnII4八核錯体を合成し、それらをカリウム塩の単結晶として単離した。単離した結晶については、各種分析機器を用いて同定を行なった。次に、これらの単結晶をリチウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、およびセシウムイオンを含む溶液(水-エタノール)に浸透させた。いずれの結晶も単結晶性を有しており、各種分光分析により、元のカリウムイオンが完全に他のアルカリ金属イオンに置換されていることが分かった。また、単結晶X線解析により、いずれの結晶においても、アルカリ金属イオンは激しくディスオーダーしていることが示された。さらに、アルカリ金属イオンの代わりに各種アルカリ土類金属イオン(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム)を含む溶液にカリウム塩の単結晶を浸すことにより、対カチオンとしてアルカリ土類金属イオンを含む単結晶の合成にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施の概要に記載したように、コバルト(III)錯体配位子、ロジウム(III)錯体配位、およびイリジウム(III)錯体配位子と亜鉛(II)イオンとの反応を行い、アニオン性のCoIII4ZnII4八核錯体、RhIII4ZnII4八核錯体、およびIrIII4ZnII4八核錯体をカリウム塩の単結晶として単離する手法を確立した。また、単離したイオン結晶を各種アルカリ金属イオンを含む溶液に浸すと、単結晶性を保持したまま、カリウムイオンが他のアルカリ金属イオンに置換されことも分かった。これにより、各種アルカリ金属イオンを対カチオンとして含む一連の単結晶の単離に成功するとともに、それらの構造的特徴(結晶中におけるカチオン性八核錯体の連結によるカチオン性超分子フレームワークの形成および対カチオン種のディスオーダー)についても、単結晶X線解析により明らかにした。さらに、結晶中のカリウムイオンが、アルカリ金属イオンだけではなく、アルカリ土類金属イオンでも置換可能であることも見出しており、研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記で述べたように、カリウム塩として得られた各種単結晶を、他のアルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンを含む溶液に浸すと、単結晶性を保持したまま元のカリウムイオンの置換が生じ、各種アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンを対カチオン種とする一連のMIII4ZnII4(M = Co, Rh, Ir)八核錯体の単結晶が得られることを明らかにした。これらの結晶中では、強固なアニオン性フレームワークの中で対カチオン種が激しくディスオーダーしており、イオン伝導体として機能することが期待される。イオン伝導体の機能の向上には、キャリアとして働くカチオンの種類を変えるだけではなく、なるべく多くのキャリアを存在させることも重要である。そこで、令和3年度は、6価の陰イオンであるMIII4ZnII4(M = Co, Rh, Ir)八核錯体に加えて、より高価数の多核錯体の開発を検討する。具体的にはZnIIの代わりにAgIを導入した多核錯体を新規に合成し、そのアルカリ金属塩の単結晶の作成を行う。これにより、アルカリ金属イオンが、結晶格子中を自由に動き回るように設計した「イオン性金属超分子ナノ構造体」の機能向上を追求していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、コロナ禍の影響により、4月と5月は実験がほとんど停止になり、それ以降も実験時間に大きな制限がかかるようになった。そのため、研究実施が予定よりも大幅に遅れ、消耗品の使用や分析機器の使用が予定より大幅減となった。さらに、令和2年度は、ほとんど全ての国際会議が中止となり、また国内会議もオンライン開催となったため、学会の参加登録費および旅費の使用も大幅減となった。今年度は、本研究の最終年度であり、実施計画内容を完結させるためにも、追加の実験の実施、論文投稿、さらには学会での発表が必要となる。そのため、昨年度繰越した経費は、追加実験に必要な消耗品費や分析機器使用料、さらには延期となっている学会参加などのための旅費として使用する計画である。
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備考 |
今野研究室(錯体化学研究室)ホームページ http://www.chem.sci.osaka-u.ac.jp/lab/konno/
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