イオン結晶中においては、通常、構成イオン種はクーロン相互作用により強く固定されており、自由に動き回ることはできない。本研究では、金属超分子をベースとするナノ構造化学を駆使して、構成イオン種が結晶格子中を自由に動き回るように設計した「イオン性金属超分子ナノ構造体」の開発を進めた。まず、L-システインをもつコバルト(III)錯体配位子、ロジウム(III)錯体配位、およびイリジウム(III)錯体配位子を合成し、亜鉛(II)イオンとの反応により、アニオン性のCoIII4ZnII4八核錯体、RhIII4ZnII4八核錯体、およびIrIII4ZnII4八核錯体をカリウム塩の単結晶として単離する手法を確立した。また、単離したイオン結晶を各種アルカリ金属イオン溶液に浸すと、単結晶性を保持したまま、カリウムイオンが他のアルカリ金属イオンに置換されことを見出した。さらに、結晶中のカリウムイオンを、アルカリ金属イオンだけではなく、アルカリ土類金属イオンや希土類イオンでも置換可能であることも明らかにした。単結晶X線解析により、これらの結晶中では、アニオン性八核錯体が水素結合により強固なアニオン性超分子フレームワークを形成していることが判明した。一方、対カチオン種はアニオン性フレームワークの中で激しくディスオーダーしており、イオン伝導体として機能可能であることを見出した。イオン伝導体の機能の向上には、より多くのキャリアの存在も重要である。そこで、令和3年度には、MIII4ZnII4錯体中のZnIIの代わりにCuIやAgIを導入したより高価数の多核錯体を新規に合成し、それらのアルカリ金属塩の単結晶の作成をおこなった。以上の研究により、アルカリ金属イオンが、結晶格子中を自由に動き回るように設計した「イオン性金属超分子ナノ構造体」の開発と機能向上を追求した。
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