研究課題/領域番号 |
20K20362
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
関口 康爾 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (00525579)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピン波 / マグノン / 論理演算 |
研究実績の概要 |
今年度は、ガーネット(YIG)超薄膜を作製する専用アニールチャンバーを稼働し、スパッタYIG薄膜の800度アニール処理、アニール処理後の表面ラフネスを原子間力顕微鏡によって解析するなどの成膜研究を行った。スパッタレート、表面粗さなどの条件だしを実現した。一方、アニールの加熱速度、冷却速度が最適化できていないが、100 ナノメートル級のYIG薄膜を作製することに成功した。 マグノントランジスタ研究として、マグノンを数十ナノメートルの磁壁で伝搬させるナノチャネルの研究に取り組んだ。金属磁性体のパーマロイを線幅2マイクロメータ程度に微細加工した試料を作製し、外部印加磁場を制御することで多磁区構造を作製し、磁壁構造をスピン波伝搬細線の内部に導入した。マグノン伝搬をネットワークアナライザで計測した結果、通常のスピン波伝搬とは異なる数百メガヘルツの周波数帯でのスピン波スペクトルを検出することに成功した。これは、一様に磁化が整列したスピン波で予想されるギガヘルツ帯の共鳴スペクトルとは異なり、磁区構造を伝搬したマグノンモードと考えられる。一方、マグノン輸送に関して、高速表面マグノンモードに動的マグノニック結晶を適用して、明確な信号キャリアスイッチを実現し、マグノン信号処理の基礎技術を構築することに成功した。制御電流によるオン・オフ比を詳細に研究した結果、YIG微細化によってコントロール電流の印加時間を低減させることで、全体の使用電力も低減できることがわかった。マグノントランジスタの基礎技術であるスピン波干渉現象に関しては、非線形励起効果を用いることで、入力信号の識別化に適用できることが計算機シミュレーションによりわかった。これらは鉄単結晶薄膜において実現できるため、前年度で培ってきた単結晶薄膜作製技術と組み合わせて、新しい応用展開となることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マグノントランジスタの構築には、ナノスケール・マイクロスケールで作製したガーネット試料が不可欠である。今年度、超高真空専用アニールチャンバーが稼働し、100nm以下の膜厚でガーネットをスパッタリング方によって作製、アニール処理による平坦化する基礎研究が実行できた。スパッタリング薄膜を単結晶薄膜にするアニール技術獲得など、高品質YIG化は未達成であるが、微細YIG構造でのマグノン信号伝搬、トランジスタ動作の確認などの研究へと発展する段階となった。また、これまで実現できていなかったマグノン高速伝搬モードでの、オン・オフ効果(スイッチ)を開発することができ、マグノントランジスタの基礎を獲得した。さらに、ナノメートルサイズの磁壁構造においてマグノン伝搬を実現できたことによって、ナノチャネルを活用した信号多重伝送など高集積化多段化に寄与する研究ができたと考えることができる。今年度の研究結果である、マグノントランジスタ要素技術が全て、相互に繋がってきており、新しいマグノン応用展開が発見されるなど予想外の結果を得た。以上の理由により、マグノントランジスタの基盤研究という観点からは、順調にすすんでいると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度で作製できたスパッタリングYIG薄膜の単結晶化を実現し、磁気損失が少なくマグノン信号減衰が少ないYIGトランジスタ構造を作製していく。一方、マイクロスケールでの微細構造での伝搬特性の研究は、現状の単結晶でないスパッタ薄膜を活用して、平行して行っていく。また垂直磁気異方性を有するコバルト(Co)超薄膜とのハイブリッド化を実現して、局所磁化操作によるマグノン伝搬制御を実行する。マグノニック結晶によるスイッチ効果を微細構造に組み込んで、信号処理制御の研究を推進し、制御電流の低減、オン・オフ比の評価など応用研究の基礎を固める。微細試料の磁壁構造を活用したマグノン伝搬は、磁場印加によって伝搬チャネルの位置を変化させることができる。再構成可能な伝送チャネル構築の研究を行っていく。ガーネット微細化が始まったことにより、それぞれの研究技術が相互に活用できるようになってきており、マグノニック機能創出が期待できる。マグノントランジスタの基礎構築を目指す。
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