マグノントランジスタは情報キャリアとしてスピン波(マグノン)を活用して消費電力が大幅に小さいデバイスを希求する研究分野である。本研究では、マグノントランジスタに不可欠な、スピン波(マグノン)伝送路におけるスピン波スイッチングを実現することに挑戦した。動的マグノニック結晶と呼ばれるメアンダ構造を作製し、メアンダに流す電流磁場によってスピン波のブラッグ散乱強度を変調した。研究当初のシミュレーションでは分散性材質におけるスピン波周波数の広がりが大きく効かないと想定しており、実験的に単一メアンダ構造で減衰を測定していたが、減衰比率が最大で75%程度と向上しなかった。ギガヘルツ帯域におけるスピン波の実時間波形を調査し、周波数分散をカバーできる二重動的マグノニック結晶を作製するに至り、減衰率95%を達成した。これにより、スピン波の動的スイッチング機能が開発でマグノントランジスタの基盤技術を開発することに成功した。 また、トランジスタ応用には二次元平面での機能連結が必要となるが、面内磁化膜を使用する限り、スピン波のモード変換が必要不可欠となる。ポイントコンタクトと呼ばれる点接触を活用し、ペルチェ素子を使った熱制御技術を応用して、スピン波のモード変換を試みた。ペルチェ素子における局所冷却によって、スピン波を表面モードからバックワードモードへの変換に成功した。また局所加熱によって、逆にバックワードモードから表面モードへ返還させることに成功した。これらは、ペルチェ素子における電流方向の反転のみで制御できており、将来スピンペルチェ効果などのように微細加工技術で作りこんだ素子構造で応用可能な原理を開発したといえる。これまで独立のモードを使って研究開発されていたマグノニック機能を多段で組む基礎技術を獲得できた。
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