本年度は、昨年度に合成したCuとZr、SrとY、ZrとYなどの隣接元素の組み合わせを含む結晶試料群を用いて研究を進めた。本研究で構築した実験室系の計測システムは以下のように稼働する。ターゲットとする元素のX線吸収端近傍の2エネルギーEfarとEnear(keV)で回折強度の測定を行ったデータセットに対し、ローレンツ偏光補正・形状吸収補正などの補正をする。同じ試料を用いてMoKa線源を用いた汎用X線回折計で測定した回折強度データを用いて通常の結晶構造解析を行って結晶構造の位相を得る。補正したデータと位相を組み合わせて、F_{Efar}-F_{Enear}のフーリエ合成(δ合成)を行うことで、結晶構造中の各サイトの元素マッピングを行い、ターゲット元素の占有率を決定する。また、制御系システムでは、本年度、検出器から得られる信号の選別と測定角度の自動制御が行えるように制御系プログラムを整備し、また、データから条件にフィードバックする自動測定を可能とした。さらに、測定時間においては、検出器のカウント時間以外に回折計が測定角度へ移動する動作時間も全体の測定時間に影響を与える。そこで、前年度までは2エネルギーでのそれぞれ別に測定していたのに対し、本年度は、1反射に対してEfar keVとEnear keVの回折強度を連続して測定する制御プログラムを新たに整備し、回折計の移動量を大幅に抑制した。これにより、全体の測定時間の圧縮を実現した。本装置を使用した結晶構造解析結果で、現時点で公表可能なデータとしては、Sr3Y(BO3)3のSrの占有率の決定(submitted)、ZrYを含有したガーネット結晶のY占有率の決定(学会発表、in preparation)があげられる。いずれの場合も、これまで汎用のX線回折計では識別できなかった占有率を実験室系で決定できた。
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