研究課題/領域番号 |
20K20365
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
岩田 耕一 学習院大学, 理学部, 教授 (90232678)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ラマン分光法 / 時間分解測定 / 化学反応 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,令和3年度までにフェムト秒光源を利用して安定性に優れた新たな方式のピコ秒時間分解ラマン分光計を開発し,フーリエ変換限界に近いプローブ光において二乗平均平方根0.8%の出力安定性を達成することができた.このピコ秒時間分解ラマン分光計を用いて金および銀のナノ粒子近傍におけるターチオフェン分子の振動緩和過程を観測し,最低励起1重項状態に電子励起されたターチオフェン分子と金属ナノ粒子との間に3ピコ秒以内での高速な振動エネルギー移動が起こること,およびこの振動エネルギー移動がチオフェン環のC-S伸縮振動に帰属される振動モードにおいてのみ進行すること,を見出した.この実験結果は,金属ナノ粒子によるモード選択的な振動位相緩和の加速やチオフェン環間のねじれ構造の緩和を示唆しており,分子内および分子間の振動カップリングによるエネルギー伝達モデルの提案につながる重要な意味を持っている.令和4年度は,これらの研究の結果を国際会議で発表して世界に発信するとともに,国外の研究者とこの問題について詳細に議論して考察を深める予定であった.令和4年8月には,ラマン分光学を主題とする大規模な国際会議であり,研究代表者がその国際運営委員に選挙で選ばれている第27回国際ラマン分光学会議が米国で対面開催された.この会議は,予想される参加者の水準から考えても本研究課題での成果を発信するとともにその内容について議論するために最適な場と予想された.しかし,学会開催の時点では,わが国において帰国便搭乗前のコロナ検査で陽性になると帰国が許されないという入国管理が実施されており,帰国できなくなるリスクを考慮して参加を取りやめるに至った.10月にはギリシアで開催された第17回科学および工学における計算手法に関する国際会議で招待講演を行ったが,研究代表者は対面参加せずにオンライン講演を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のとおり,令和4年度には,国際会議で成果を発表して外国からの研究者達との詳細な議論を通じて本研究課題に関する考察を深めることは実現しなかった.これは新型コロナ感染症の蔓延による渡航制限によって引き起こされた事態であって研究代表者が制御できる範囲を超えていたとはいえ,本研究課題の推進という観点からは不本意だったと言わざるを得ない. 一方で,上述のとおり,本研究ではこれまでの実験によってきわめて新規性が高く,基礎科学の視点からみて重要な結果を得ていることもまた事実である. これらの状況を総合的に勘案すると,本報告書の執筆時において「おおむね順調に進展している」と判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
本報告書の執筆時点では,新型コロナ感染症による渡航制限はほぼ解消されている.令和5年度には,対面での国際会議に参加して研究の成果を発信するとともに,国外からの研究者との議論を通じて本研究課題についての考察を深める.6月にオランダで開催される時間分解振動分光学に関する国際会議(TRVS2023)には,研究代表者は次回の同会議のcochairとして参加する.9月にポーランドで開催される第12回先進振動分光学に関する国際会議(ICAVS12)では研究代表者は全体講演を行う.10月には,研究代表者がコロナ禍以前の数年間にわたって国際運営委員を務めた米国開催のSciXでの研究発表を予定している.国内では,9月に研究代表者がcochairとしてアジア分光学会議(ASC2023)を新潟県で開催する.これらはいずれも分光学の専門家が世界から集まる水準の高い会議である.これらの会議での成果発表と参加者との議論を通じて本研究課題の完成度を高める.国際会議での研究交流と並行して,原著論文を執筆して査読付き国際誌に投稿する.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度末までに本補助金を有効に活用したが,889円が未使用分として残った.この未使用額を次年度の消耗品購入に充てる予定である.
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