研究課題/領域番号 |
20K20367
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
石谷 治 東京工業大学, 理学院, 教授 (50272282)
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研究分担者 |
玉置 悠祐 東京工業大学, 理学院, 助教 (10752389)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光反応化学 / レドックス光増感錯体 / S-T吸収 / 光触媒反応 |
研究実績の概要 |
二つの異なる三座配位子bis(N-methylbenzimidazolyl)pyridineと2,2′:6′,2′′-terpyridineを有するルテニウム(II)錯体は、赤色光 (λex > 620 nm) を吸収する光増感剤として機能し、レニウム(I)触媒と組み合わせることでCO2還元を光触媒的に駆動することを見出した。詳細な分光測定および計算科学的手法により、長波長側の吸収帯はS-T遷移性を含むことが分かった。また2,2′:6′,2′′-terpyridineに様々な置換基を導入し、ルテニウム(II)錯体の分光学的性質の変化を詳細に解析した。電子求引性の置換基を導入すると、S-T吸収は長波長化し、同時に励起状態も長寿命化した。すなわち、光増感剤として有用な二つの性質の改善を両立できた。 また、同様の配位子を有するオスミウム(II)錯体も光増感剤として働くことを見出した。ルテニウム(II)錯体と比較しても、より長波長側により顕著なS-T吸収帯を示し、可視光全域を吸収した。ルテニウム(II)触媒を共存させ、725 nmの光を照射するとCO2をHCOOHへと光触媒的に還元した。すなわち、全波長領域の可視光を吸収できる光増感剤の開発に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中心金属や配位子を検討した結果、σ供与性の強いbis(N-methylbenzimidazolyl)pyridineと2,2′:6′,2′′-terpyridineを有するルテニウム(II)錯体やオスミウム(II)錯体が、S-T遷移による長波長吸収を示すことが分かった。これらの錯体は、励起状態において比較的長い寿命を有し、光増感剤として働くことを見出した。2,2′:6′,2′′-terpyridineに電子求引性の置換基を導入すると、S-T吸収の長波長化と励起状態の長寿命化を両立できた。励起寿命が長くなったのは、d-d励起状態経由の無輻射失活を抑制できたためであることが分かった。またオスミウム(II)錯体は、800 nmまでの可視光を吸収し、可視光全域を吸収できる光増感剤を開発した。
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今後の研究の推進方策 |
三座配位子を有するイリジウム(III)錯体について検討する。これまでに得られた知見を基に、強いS-T吸収帯を発現し、可視光を吸収するイリジウム(III)錯体光増感剤の開発を目指す。配位構造として[M(N^N^N)2]2+ (M = Ru, Os) ではなく、[Ir(N^C^N)2]+や[Ir(N^C^N)(C^N^N)]+をとることで、ルテニウム(II)錯体やオスミウム(II)錯体の欠点である低い還元電位を克服することも目的とする。 また磁気円偏光二色性 (MCD) 測定等により、S-T吸収をより詳細かつ定量的に解析する。これらの情報を基に、より強いS-T吸収を発現するための分子設計を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により光触媒合成が遅延した。合成を行うため合成試薬、溶媒、不活性ガス、ガラス器具等を追加で購入する必要がある。また、成果報告のための英文校正料・投稿料200,000円、事務限定職員人件費5か月分400,000を算定。以上の経費として妥当な額である。
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