本研究課題では、病原性原虫内の金属元素を標的とする金属親和性化合物を創出し、新たな原虫感染症治療薬の創成に活かす「金属元素ターゲッティング」の新手法の開拓に取り組んでいる。そこで当該年度では、昨年度に引き続き、マラリア原虫内の金属元素に特異的に作用する金属親和性化合物の作用機序解析に従事し、新たなマラリア治療薬候補としての有効な薬理活性を定義すると共に、改善すべき物理化学的性質などを明確化した。さらに、マラリア原虫以外の病原性原虫に作用する金属親和性化合物の探索にも取り組んだ。例えば、赤痢アメーバ症は、赤痢アメーバ原虫Entamoeba histolyticaの経口摂取により感染し、大腸炎・肝膿瘍などの病変を引き起こす感染症である。そこで、金属元素ターゲッティングの概念を適用し、抗アメーバ活性を発現する新規化合物を探索した。その結果、ヒト細胞に対して低毒性でありながら、赤痢アメーバ原虫に対して増殖抑制効果を発揮する金属親和性化合物を見出した。さらに、この化合物は、赤痢アメーバ原虫内の標的金属として鉄イオンを特異的に捕捉するだけでなく、赤痢アメーバ原虫感染動物モデルで発症した肝膿瘍が完治させることを明らかにした。これにより、マラリア原虫及び赤痢アメーバ原虫の増殖活動を抑制する金属親和性化合物の同定に至った。つまり、これら研究成果は、原虫感染症治療薬候補としての金属親和性化合物の可能性を示唆すると共に、金属元素ターゲッティングによる創薬研究開発の有用性の一端を証明するものとなった。
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