嗅覚情報だけはヒトが感知可能な匂い分子全て(数十万種類)を表現する基本臭が存在しないため、「正確な表現と再現」が困難であった。一方、食品、飲料、醸造品、香粧品等のヒトが直接触れる製品開発において、味覚と嗅覚に基づく官能試験は非常に重要であるが、試験官の資質に大きく依存するため、再現性やハイスループット性が極めて低く、何よりも官能試験結果の正確な共有が困難であった。我々は嗅覚情報の「正確な表現と再現」を実現するためには、まずはヒトが感じることができる匂い分子全てを正確に測定するための「センサー」と「新しい表現方法」を開発する事が必要と考えた。前々年度に完成した「ヒト嗅覚受容体発現細胞アレイ」のプロトタイプに、カルシウムインジケータの改良、アレイ固相からの遺伝子導入法の改良、嗅覚受容体発現細胞に導入するシャペロン群の改良、検出用光学系の改良、得られた波形データの解析プログラムの改良(大量のノイズを含むので1細胞解析した後、AIを用いてデータを平準化)などを行った。その結果、様々な匂い分子を測定することが可能になり、イソ吉草酸の測定では、ヒト嗅覚を超える感度を発揮することが判明した。
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