研究課題/領域番号 |
18H05361
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
白武 勝裕 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (90303586)
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研究分担者 |
財津 桂 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (30700546)
林 由美 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (30632707)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | メタボローム解析 / 農作物 / PESI/MS/MS / 探針エレクトロスプレー/タンデム質量分析 / 非破壊・リアルタイム解析 |
研究実績の概要 |
植物は動物に比べ代謝物の種類が多く濃度も様々である.このため,まず植物代謝物を植物組織中あるいは抽出試料として,定性・定量的に探針エレクトロスプレー/タンデム質量分析(PESI/MS/MS)で分析できるかの検証を行った.検証実験では,フェノール化合物,特にアントシアニンに着目し,光でアントシアニンの蓄積が誘導されるブドウ培養細胞を用いた. まず標品を用いて,MS/MSを行う際のcollision energyとプロダクトイオンの選定を行った.当初,最適なcollision energyとプロダクトイオンを1つ選定する予定であったが,1化合物に対して複数のcollision energyとプロダクトイオンを設定することで,標的化合物の検出の特異性を高めることができた.次に試料中の夾雑物の影響(マトリクス効果)を検証するために,アントシアニン非蓄積ブドウ培養細胞をブランク試料として,アントシアニンの検量線を作成したところ,高い直線性(R2>0.99)と良好なバリデーション結果を得た. そこで異なる濃度のアントシアニンを蓄積したブドウ培養細胞の抽出試料をPESI/MS/MSで分析したところ,アントシアニンの絶対定量が可能であること,さらにquercetin,catechin,piceidなどの複数種のフェノール化合物の相対定量が可能であることが明らかとなった. さらに植物組織中の代謝物をそのままPESI/MS/MSで分析できるかを検証するために,果実(ブドウ,ブルーベリー)の果皮とマメ(クロダイズ,キントキマメ,アズキ)の種皮に,直接,PESIの細針を刺して分析を行ったところ,含まれるアントシアニンの分子種とそれらの相対量を捉えることに成功し,PESI/MS/MSが植物組織中の代謝物を直接検出できることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,まず[Ⅰ,植物代謝物の標品化合物の分析]と[Ⅱ,植物試料のマトリクス効果の検証]により植物代謝物の定性・定量性の確認を行った後,[Ⅲ,植物の組織・器官の直接分析]と[Ⅳ,植物からの抽出物の分析]の実施を計画した. 【研究実績の概要】に記載した通り,計画したこれらI~IVについてほぼ研究を完了し,PESI/MS/MSが植物組織中の代謝物を直接検出できることを明らかにした.IおよびIIの研究において,『1化合物に対して複数のcollision energyとプロダクトイオンを設定することで,標的化合物の検出の特異性を高めることができること』を見出した点は,クロマト分離を持たないPESI/MS/MSの定性性の問題点を解決する,有用な発見として特筆できる. 平成30年度に計画した研究の中で,唯一LC-MSによるPESI/MS/MSの解析データの検証が残ってしまったが,その研究は現在実施中であり,平成31年度前期に完了する予定であり,課題全体の研究の進捗には大きく影響しない.
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの進捗状況】に記載したように,全体として大きな問題なく研究は順調に進捗しているが,平成30年度に計画した研究の中で『LC-MSによるPESI/MS/MSの解析データの検証』がまだ残っているため,その研究を平成31年度に継続して実施し,年度前期に完了する予定である. 当初計画では,[1,植物の組織・器官の直接解析],[2,植物からの抽出物の解析],[3,植物の代謝のリアルタイム・モニタリング],[4,植物の細胞・組織・器官の代謝物イメージング],[5,植物ホルモンの定量],[6,農作物の残留農薬の分析]の6つの分析法の確立とその実証例の提示を目標に掲げ,1年目に1と2,2年目に3と4,3年目に5と6を実施することを提案し,計画通り1年目に1と2を実施した.当初計画では,2年目は3と4を進める計画であったが,予備実験において[3,植物の代謝のリアルタイム・モニタリング]より[5,植物ホルモンの定量]で良好な結果が得られたため,計画を変更して2年目に4と5を,3年目に3と6を実施する.
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