研究実績の概要 |
胚盤胞は着床前エピブラスト、栄養膜、原始内胚葉の3つの細胞系譜で構成される組織である。これまでに、胚盤胞からは幹細胞として、着床前エピブラストからES細胞が、栄養膜からTS細胞が樹立されていたが、原始内胚葉の幹細胞は未樹立であった。 我々は、無血清培養条件において、FGF4により、内部細胞塊の運命をエピブラスト-原始内胚葉の原始内胚葉に方向付け、CHIR99021によりWNTシグナリンングを正に制御し、原始内胚葉が高発現するPdgfraのリガンドであるPDGF-AAを加えることで、残る原始内胚葉からも原始内胚葉幹細胞(primitive endoderm stem cells, PrESCs)の樹立に成功し、報告した(Ohinata Y et al., Science 375, 574-578 (2022))。 これにより、人工胚盤胞作製に必要な全ての細胞系譜の要素が揃ったことになる。我々は次に、試験管の中で、ES細胞、TS細胞、PrES細胞を組み合わせ、初期胚オルガノイドを作製した。3日間のオルガノイド形成培養、さらに3日間の分化培養によって、ES細胞、TS細胞、PrES細胞のそれぞれが未分化状態から着床後の細胞状態に誘導されていることを単一細胞解析によって明らかにした。さらに、初期胚オルガノイドの偽妊娠マウス子宮への移植を行なった。これら人工胚は、高効率で着床し、臓側卵黄嚢、壁側卵黄嚢様構造に取り囲まれた胚様構造を派生させた。正常な胚を発生させることはできなかった。今後、幹細胞のみで発生可能な胚を再構成するためには、それぞれの未分化性、性質を改良し、さらに精密にこれらを組み合わせる必要があることが示唆された。
|