本研究では嗅覚感度に関する分子基盤の解明を目指しており、今年度は以下の結果を得ているので具体的に説明する。 1、2種類の嗅嗜好性試験(ビーカー等を用いた「field trap assay」とT-Mazeを用いた「Two-choice assay」)の結果安定性を比較検討した。具体的には、実験時間(朝、夕、夜など)、温度、湿度、明暗など、様々な実験条件を検討した。その結果、ビーカー等を用いた「field trap assay」を、嗅覚感度を測定する方法として利用することとした。 2、「field trap assay」を繰り返すことにより、同じ系統(遺伝学的背景が同じ系統)から、「嗅覚感度の高い集団」と「嗅覚感度の低い集団」を安定的に選別する手法を見出した。具体的な工夫としては、ショウジョウバエに対する飢餓時間、「field trap assay」の計測時間や繰り返し回数など、様々な条件を調節している。 3、各ショウジョウバエの触角における嗅覚受容体細胞数を計測するための染色方法を開発した。嗅覚感度の高い個体と低い個体における嗅覚受容体細胞数を比較した結果、嗅覚感度と嗅覚受容体の細胞数の間に明確な相関はなかった。 4,「嗅覚感度の高い集団」と「嗅覚感度の低い集団」の間における遺伝子発現量を比較検討した結果、sNPFR (sNPF神経ペプチドの受容体)遺伝子の発現量が顕著に異なることを見出した。sNPFRは個体の飢餓レベルによって変動する遺伝子として知られている。この事実から、私が見出した「嗅覚感度の高い集団」と「嗅覚感度の低い集団」の差は、飢餓レベルの差から生じている可能性が考えられる。現在、嗅覚感度と個体飢餓レベルの関連について検討を行っている。
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