研究課題/領域番号 |
18H05371
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
清末 優子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (90568403)
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研究分担者 |
川崎 善博 東京大学, 定量生命科学研究所, 客員准教授 (10376642)
和氣 弘明 神戸大学, 医学研究科, 客員教授 (90455220)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 3Dライブイメージング / 超解像イメージング / 光刺激 / ホログラフィ |
研究実績の概要 |
本研究課題では、かつてない時空間分解能での3Dライブイメージングを可能とする『格子光シート顕微鏡(Chen et al., 2014, Science)』に、任意の細胞内領域をナノスケールレベルで光刺激する技術を導入することで、精密な細胞機能制御技術の開発を目指す。これまでに格子光シート顕微鏡の構築を完了している。さらに、1ミクロン以下の太さのベッセルビームで細胞内を照射してそのビーム形状を観察し、細胞内部の任意の領域にナノスケールサイズのスポットの形成が可能であることを確認した。 3次元的に配置された複数の刺激対象を多点同時に高速で刺激するためには、刺激スポットの数と形状および速度が不十分であった従来の光刺激技術に代わる技術の導入が必要である。そこでレーザーを自在に成型できるデジタルホログラフィック技術の導入を試みる。これまでに、複数の脳神経細胞に対し多点同時に高速で刺激するために、ホログラフィック刺激および2光子顕微鏡による計測の一体化した試作機の作成が完了し、これを用いて生体組織および生体の神経細胞の活動の計測・操作の同時記録に成功している(Quan et al., 2018, Opt lett)。この技術を今後、格子光シート顕微鏡に応用する。 また、開発したシステムを用いて発がん機構を解明するため、CRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いて、がん幹細胞マーカーLgr5のプロモーター制御下で蛍光蛋白質が発現するヒト大腸がんオルガノイドを作成した。これを用いれば大腸がんオルガノイドにおける個々のがん幹細胞のふるまいを追跡することができる。今後、更なるゲノム編集技術によってがん関連遺伝子の欠損や増幅を行い、がん幹細胞のダイナミクス(細胞分裂や分化が起こる場所・タイミングなど)を詳細に解析することで、がんの発生機序や病態の理解につながる新しい知見の獲得を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
観察用レーザーを2本(488, 560 nm)を搭載する『格子光シート顕微鏡』の基本システムの構築は完了し、かつてない時空間分解能で様々な細胞現象の可視化を進めている。顕微鏡の性能向上のため、レーザーの追加搭載(405, 642nm)や、デュアルカメラへのアップグレード等を進めている。2019年度には故障部品の修理を行った。ナノスケールでの光刺激の実現性を確認するため、格子光シート顕微鏡下で1um以下の太さのベッセルビームを細胞に照射しその形状を観察し、細胞質内では光の著しい歪みはなく、オルガネラレベルでの刺激が十分に可能であることを確認した。また、格子光シート顕微鏡がもたらす多次元データを解析するための画像/データ解析技術の開発を行った。 3次元的に配置された複数の刺激対象を多点同時に高速で刺激するためには、レーザーを自在に成型できるデジタルホログラフィック技術が必要である。共同研究者・和氣らは、これまでホログラフィック刺激および計測の一体化した試作機の作成を完了し、これを用いて生体組織および生体において、単一神経細胞の活動の計測・操作の同時記録に成功している(Quan et al., 2018, Opt lett)。今後、この技術を格子光シート顕微鏡に搭載する。 共同研究者・川崎らは、CRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いて、がん幹細胞マーカーLgr5のプロモーター制御下で蛍光蛋白質を発現するヒト大腸がんオルガノイドを作成した。これによって、大腸がんオルガノイドにおける個々のがん幹細胞のふるまいを追跡することが可能となった。今後、更なるゲノム編集技術によってがん関連遺伝子の欠損や増幅を行い、がん幹細胞のダイナミクス(細胞分裂や分化が起こる場所・タイミングなど)を詳細に解析するために、前がん段階のヒト細胞オルガノイドの調製やレポーター導入変異マウスの作製などを進めている。
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今後の研究の推進方策 |
既に構築している格子光シート顕微鏡の基本システムにレーザーやカメラの追加搭載などの高度化しつつ、細胞形態制御、発がん機構、オートファジー、エクソソームによるレシピエント細胞機能制御機構など、様々な細胞現象のイメージング解析のために用いる。多次元高解像画像とデータを解析する手法の開発もあわせて進める。 格子光シート顕微鏡に細胞解析のための光刺激機能を搭載するために、ベッセルビームやホログラフィを用いた光技術を導入して、細胞内部の任意の領域やオルガネラをナノスケールレベルで光刺激する技術を連携させる。分裂細胞の中心体やミトコンドリア、細胞表層のアクチンなどのオルガネラや細胞構造を標的として、光活性化タンパク質を利用した特定の分子機能の制御や破壊などのテクニックを活用することで、オルガネラレベルでの機能制御を試みる。 開発したシステムは、シングルセルやオルガノイド等を用いて、正常および疾患における細胞機能の解析に適用し、新たな知見の獲得や医学薬学への貢献を目指す。 本研究で開発したシステムを汎用的な実用レベルに完成させるためには、実用化に向けた次ステップのプロジェクトを目指す。
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