研究課題/領域番号 |
20K20379
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
清末 優子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (90568403)
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研究分担者 |
和氣 弘明 神戸大学, 医学研究科, 特命教授 (90455220)
川崎 善博 東京大学, 定量生命科学研究所, 客員准教授 (10376642)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 3Dライブイメージング / 格子光シート顕微鏡 / ベッセルビーム |
研究実績の概要 |
本研究課題では、「格子光シート顕微鏡」の高い3D分解能と高速性を活かして、これに光刺激を導入することで、高い精度での様々な細胞計測と操作の実現を目指している。 これまでに、2014年に発表した格子光シート顕微鏡(Science 346, 1257998, 2014)の国内初号機を完成し運用している。本年度までに、GFP/RFP用488nm/560nmレーザーに加え、近赤外624nm、紫外線405nm、CFP/YFP用445nm/532nmレーザーを搭載した。当システムでは、空間光変調器を用いて照射パターンを生成するため、イメージングに用いる1ミクロン以下の厚みの超薄格子光シートに加え、ベッセルビーム等も生成しガルバノミラーで掃引することで任意の幅で照射することができる。これまでに、488nmレーザーを用いて、細胞骨格や細胞核の一部分など、ミクロンから数ミクロン程度の領域のブリーチングを実現している。本年度は、オルガノイド等の立体的なサンプルに対して光操作を行うために、ヒストンH2B-GFP/mCherryノックインマウスや、新たに樹立した光変換蛍光タンパク質mEos4融合H2B(H2B-mEos4)ノックインマウスから腸オルガノイドを作製して、シングル染色体を分離できる解像度でのイメージングを実現した。 和氣チームでは、これまでに開発したニコンC1顕微鏡をベースとした2光子ホログラフィック顕微鏡の技術改良を行い光スポット数やスポット位置に関わらず均質な光刺激を行なうための位相最適化法を搭載した。2光子励起した蛍光画像をCCDカメラで取得することができれば格子光シート顕微鏡等に応用できると考え、2光子励起光をホログラフィック光路によってマルチスポットで生体に作成し、発生する蛍光をCCDで検出することに成功した(およそ100個の神経細胞活動計測を100-400Hzで可能)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度および本年度は、コロナウィルス流行による活動制限による研究活動や共同研究の低下、物資の供給遅延によるある程度の研究の遅れは免れなかったものの、格子光シート顕微鏡を完成して様々な研究を推進し、光刺激を導入し、当初予定のほとんどの部分は実施した。さらに当初予定を拡張し、オルガノイド等を用いた立体的なサンプルへの適用を進めた。 格子光シート顕微鏡の高時空間分解能の性能をもって初めて撮影された細胞現象事例として、細胞内オルガネラや小胞の3D完全追跡、細胞3D形態の時間変化や詳細な記述、高解像度での細胞間接着様式、3Dシグナル伝達(FRET)、オルガノイド細胞のカリオタイピングなど、従来の限界を超えた計測を実現している。ここにサブミクロン径の刺激用ビームを導入することで光操作を実現出来ているので、各種プローブやツールを導入することにより任意の多様な操作は可能となった。 当研究室で構築した2014年発表の格子光シート顕微鏡オリジナルモデルは正立様の構造型式であることから、立体サンプルに対して上側からアクセスするため様々な形態のサンプルへの応用範囲が広い。この性能を利用して、倒立顕微鏡では観察が困難であるオルガノイドを用いても、平面培養細胞同様に、高解像イメージングや光操作が可能である。ヒストンH2Bを標識したマウス由来のオルガノイドを用いて、シングル染色体レベルの観察に成功し、染色体数の解析や、幹細胞性を評価するための細胞分裂の向きの同定に成功している。このような立体サンプルの高時空間分解能ライブイメージングと細胞への刺激を組み合わせることで、より生体に近い環境下にある細胞の高精度計測と光摂動による機能解析への道を拓いた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、格子光シート顕微鏡による高精度時空間計測を基軸として、これに微小領域の光刺激を導入することで様々な細胞機能解析への応用を目指した。格子光シート顕微鏡の2014年モデルは完成し、レーザーを6本を搭載してイメージングはフルスペックで行うことができており、多様なサンプルの撮影において従来の限界を超えた時空間解像力により様々な研究領域に新たな発見を導いている。ここに微小領域光刺激を導入し、様々な光刺激ツールを利用して多様に応用可能であることを示した。 イメージングにおける課題は、セットできるサンプルサイズや観察できる視野が限られることである。格子光シートを生成するために対物レンズは固定で変更できず、現状の対物レンズでは一度に撮影できる領域は最大100x100um平面, 深さ50um程度で、腸オルガノイドの場合は幹細胞が存在するクリプト様構造のおよそ1/3程度の領域しか撮影できない。広い平面を撮影するためにはパネル撮影を行うことができるが、装置や制御ソフトの動作が限られている。さらに、深部撮影においてはサンプル内部での光散乱により解像力が低下する。これらを改善するためには、より大きなサンプルの観察に最適化したシステム設計と、深部観察におけるボケを補正する補償光学を搭載することが有効であるが、格子光シート顕微鏡を発明したBetzig研究室において次世代モデルが既に開発されているため、オリジナルモデルに続き技術情報の提供を受けることで当室のモデルをアップグレードする。今後の研究課題で実施するため、既にライセンス契約により技術情報の提供を受けて構築準備を進めている。 光刺激における課題は光照射の高度化である。より複雑なパターン照射や、ライブイメージング取得から刺激領域の決定と照射までの一連のプロセスの自動化が達成できれば、より高度な操作が可能となるため、将来的に高度化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス流行のために遅延した研究計画を実施するため。
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