研究課題/領域番号 |
18H05378
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター) |
研究代表者 |
片岡 一則 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター), ナノ医療イノベーションセンター, センター長 (00130245)
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研究分担者 |
Cabral Horacio 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (10533911)
津本 浩平 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90271866)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 免疫チェックポイント阻害剤 / mRNA / 高分子ミセル / 膠芽腫 / がん免疫療法 / ドラッグデリバリーシステム / 血液脳腫瘍関門 / 抗体 |
研究実績の概要 |
膠芽腫は、生命予後の極めて悪い脳腫瘍であり、他のがん種に対して著効する免疫チェックポイント阻害剤も効果を示さない。本研究では、mRNAを用いて、腫瘍組織内で抗体医薬である免疫チェックポイント阻害剤を持続的にその場産生させるという新たな治療戦略を構築する。本年度は、がんに高発現し、免疫回避を促すPD-L1分子に対する単鎖抗体(scFv)を作製したが、scFvはmRNAからの発現が容易で、かつ腫瘍組織からの排泄機構を回避できるといった利点を持つ。調製したscFvは、高い熱安定性やPD-L1に対する強い親和性を示した。次に、そのscFvをコードするmRNAを設計したが、その際、標的細胞内で翻訳されたscFvを効率的に細胞外へ分泌させるために、scFv配列に対してヒトインターロイキン2由来の分泌シグナル配列を付与した。このようなmRNA設計と並行して、mRNAを生体内投与後に効率的に膠芽腫に送達するためのmRNA搭載高分子ミセル設計にも着手している。mRNA送達の大きな課題とされている生体内でのmRNA酵素分解に対して、ミセル内でmRNAと結合するポリカチオン鎖に着目した検討を行った。mRNAとの結合力が強い新規ポリカチオンを開発したところ酵素分解が大幅に抑制され、またカチオン鎖同士を化学架橋したところミセルの生体内安定性が向上した。さらに、これらの設計に生分解性を付与することで、ミセルの安全性を向上させた。開発した高分子ミセルは、粒径が100 nm以下で、表面電荷がほぼ中性であるなど、生体への投与に適した性質を兼ね備えており、実際に、マウスへの全身投与後、長期にわたる血中滞留性を示した。以上、各検討項目について、当初の研究計画調書に沿って進捗しているとともに、ミセルのマウス血中での動態観察等、計画を前倒しする形での成果も得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
免疫チェックポイント阻害scFvを発現するmRNAの設計、さらにそのmRNAを送達するための高分子ミセルの開発に関して、下記の様な特筆すべき成果を得ることが出来た。 1) 抗PD-L1 scFvに関して、抗PD-L1抗体の承認薬アベルマブの配列に基づきscFv配列を得た。得られたscFvタンパク質は、高い熱安定性を示したほか、表面プラズモン共鳴によりPD-L1分子との高い親和性が確認された。 2) scFvをmRNAの形で哺乳類細胞に導入した際に、scFvを効率的に細胞外に分泌させることを目的として、ヒトインターロイキン2由来分泌シグナル配列をscFv配列に付与したmRNAを設計した。 3) mRNA酵素分解を抑制するための高分子ミセルに関して、(戦略1) 柔軟なmRNA鎖に対応した柔軟な主鎖骨格を持つポリカチオン鎖を設計し、mRNAとの結合力を向上させたほか、(戦略2) ポリカチオン鎖を化学架橋し、ミセル構造を安定化させた。戦略2では、細胞内でミセルの崩壊に伴ってmRNAが放出され、タンパク質翻訳が得られるように、細胞内環境に応答して開裂する架橋構造を用いた。いずれの戦略においても、mRNAの血清中分解酵素耐性が大きく向上したほか、その設計に生分解性を付与したところ、細胞毒性がほとんど認められなかった。また、マウスに全身投与したところ、長期にわたる血中滞留性が確認された。このように、今後、膠芽腫へのmRNA送達を目指す上で基盤となるような高分子ミセルの設計を得ることができた。 1年目の段階で既にin vivo試験に進むなど、当初の計画を上回る進捗が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
「8.現在までの進捗状況」に記述した様に、本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価される。したがって、今後の研究については、当初の計画に沿って推進して行く予定である。なお、本年度に研究を遂行する上で生じた問題点については、以下に示す様な対応を行うことで解決の見通しを得ており、今後の研究計画は予定通りの進捗が見込まれる。 1) 抗PD-L1 scFv発現mRNAについて、これまでに分泌シグナルを付与したmRNAの調製に成功しているため、今後はその機能評価に取り組む。具体的には、mRNAを培養膠芽腫細胞に導入した上で、培養上清中のscFv量を測定することで、細胞外へのscFvの分泌能を評価するほか、分泌されたscFvのPD-L1に対する親和性を表面プラズモン共鳴法で評価する。 2) mRNA搭載高分子ミセルに関して、十分な分解酵素耐性を有し、粒径が100 nm以下で、表面電荷がほぼ中性といった生体内投与に適した構造の設計に引き続き取り組む。具体的には、ポリカチオン鎖化学構造や架橋量などのパラメーターを多元的に最適化する。さらに、静脈内投与による膠芽腫標的化への挑戦を見据え、血液脳腫瘍関門を突破するリガンド分子のミセルへの搭載を検討する。 3) 抗PD-L1 scFv発現mRNAを搭載した高分子ミセルが目的の機能を果たすことをin vitro及びin vivoで確認する。In vitroでは、scFvの分泌を上述のように定量するとともに、膠芽腫細胞が発現するPD-L1に対する阻害活性を評価する。In vivoでは、マウスに同所移植した膠芽腫に対してmRNA搭載ミセルを直接投与したのち、scFv産生量を経時的に測定するほか、ルシフェラーゼ恒常発現膠芽腫のモデルマウスに対する抗腫瘍効果を生体発光イメージング法にて評価する。
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