研究課題/領域番号 |
18H05386
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
塩田 清二 星薬科大学, 先端生命科学研究所, 教授 (80102375)
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研究分担者 |
竹ノ谷 文子 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (30234412)
中町 智哉 富山大学, 学術研究部理学系, 講師 (30433840)
坪田 一男 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (40163878)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | PACAP / PAC1R / 涙腺 / 角膜上皮 / 角膜内皮 / ドライアイ / 点眼薬 |
研究実績の概要 |
視床下部で産生され、神経伝達物質・修飾物質さらに免疫調節因子として作用する生理活性ペプチドである。申請者はPACAPによる神経新生・神経再生の分子制御機構を20年にわたり調べてきた。最近我々は、ドライアイの発症にPACAPが直接関与する可能性を発見した(Nakamachi, Shiodaら、Nat Commun 2016)。すなわち、PACAP KOマウスでは涙液分泌の低下がおき、しかも高齢でメスのマウスに顕著に発症することも分かった。さらにこの動物個体では角膜上皮細胞の増殖により、血管新生および角膜障害が発症するなどのドライアイ様の表現型を有することも明らかになった。さらに、PACAPの動物個体への投与により涙液分泌の促進作用のあることや、ドライアイの動物個体にPACAPを投与すると治療効果のあることを明らかにした。つまり、PACAPのドライアイ治療薬としての可能性のあることも我々は明らかにした。当該研究では、既存のドライアイ点眼薬では機能がないといわれる角膜上皮・内皮細胞の再生・新生および抗炎症作用についてもPACAPの機能をしらべた結果、ヒト培養角膜上皮細胞に障害を加えたモデルにPACAPを添加すると角膜上皮細胞の再生と新生の起きることを証明し現在論文作成中である。また、PACAPが角膜内皮細胞の障害を防御できるかどうかについては現在培養細胞を使って機能的意義を調べている。点眼は2時間の持続的涙液分泌促進作用があることが分かったので、ドライアイの予防改善以外に従来の点眼薬にない画期的な新規の点眼薬の創薬開発ができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、PACAP KOマウスを用いてPACAP 投与による涙液分泌促進作用をみているが、その生体内での分泌が副交感神経系と一致するかについて2重免疫組織化学法を用いて検索している。また交感神経・副交感神経の外科的および薬物投与による涙液分泌量の変化と PACAP との関連性、さらにPACAP 投与後の涙腺からの涙液分泌の作用機序を動物実験についても調べている。次に、 PAC1R, VPAC1R,VPAC2R KO マウスの作出を行なっており、PAC1R KOマウスの作出に成功したので動物実験レベルでの受容体の直接関与をしらべている。PACAPの受容体には上記の3種類が存在することから、涙液分泌に関与している受容体の種類の同定を行うために、各種受容体阻害剤を用いた動物実験と、受容体の遺伝子欠損マウスでのPACAP投与実験による涙液分泌促進作用についての実験を行なう。PAC1R, VPAC1R, VPAC2R遺伝子のノックアウトマウスを作出するために、CRISPR/Cas9 システムを用いる。 さらに本研究では、PACAPの角膜創傷治癒作用の詳細を明らかにする為、その効果を分子レベルでしらべた。PACAPの角膜創傷治癒効果は、ヒト角膜上皮細胞HCEC-IIを用い、スクラッチアッセイで評価した。また、細胞増殖促進効果はEdU標識及びMTTアッセイにより測定した。さらに、PACAPによる創傷治癒に関与する重要な因子を検討には、DNAマイクロアレイ法を用いた。スクラッチアッセイの結果、PACAP投与により創傷治癒効果があることが示された。またPACAP-PAC1Rの下流にある遺伝子を発見し、現在その機能的意義を解明している。この創傷治癒効果は細胞の増殖性及び走化性の上昇によるものであることが推定され、特に増殖性の上昇によるものであることがEdU標識実験で分かった。
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今後の研究の推進方策 |
ドライ症候群に対するPACAPの作用機序とその分子機構の全容解明を行う。そのためにまず副交感神経ネットワークを介したPACAPの外分泌腺分泌機構の解明を目指す。さらに、PACAP投与後の涙腺の外分泌腺刺激による涙液分泌機構をアクアポリン(AQP5)ファミリー発現動態から解明しその分子機構を動物実験と培養実験によりしらべる。涙腺におけるPACAPの涙液分泌促進作用について培養実験を行う。培養下で涙腺にPACAPを投与し、細胞内Ca濃度変化を測定し、さらに種々の阻害剤を用いて実験を行い、PACAPがPAC1受容体を介して涙液分泌を促進する可能性をしらべる。またPACAP投与によって涙腺のAQP5がリン酸化を受けて水チャンネル分子を活性化させるかどうかを培養実験でしらべる。同時にPACAPが副交感神経を介して作用するのかあるいは単独に作用するのかコリン作動性の受容体(ムスカリニック受容体)の阻害剤などを使用して確定する。さらに、CRISPR-Cas9システムを用いたPAC1R, VPAC1R,VPAC2R KOマウスを作出することを目指す。現在、PAC1Rの遺伝子欠損マウスを交配して動物実験および培養実験を行う予定である。さらにPACAPによる角膜上皮あるいは内皮細胞の細胞防御についてスクラッチアッセイ法を用いて実験を行う予定である。PACAPがドライアイのみならず角膜上皮。内皮細胞の細胞死抑制と再生・新生作用を明確にして今までにない画期的な新規点眼薬の開発を行なっていく。また慶應大学の坪田教授の協力をえて、今後はヒトでのPACAP点眼による涙液分泌促進作用をしらべていく予定である。さらにヒトの倫理委員会を通じてドライアイ患者へのPACAP点眼を行えるような体制を構築していく予定である。
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