研究課題
PACAPは神経伝達物質・修飾物質さらに免疫調節因子として作用する生理活性ペプチドである。申請者はドライアイの発症にPACAPが直接関与する可能性を発見したことから、ドライアイに対する新規の予防・治療法の開発を行う。本研究では、角膜上皮・内皮細胞の再生・新生および抗炎症作用についてもPACAPの機能を明らかにすることを目的に実験研究を行う。PACAP点眼は2時間の持続的涙液分泌促進作用および角膜上皮の再生・申請作用があることから、画期的な新規のドライアイの創薬開発を行う。最終的にはドライアイの創薬を実現することが本研究の主な目標である。 本研究計画では、応募者の塩田グループを中心としてそのほか3つの国内グループ間の相互協力体制を構築し、基礎から臨床応用まで可能となる研究者を集めて 共同研究を行なう。申請者は、令和2年度からPACAPによる角膜上皮の再生・新生作用についての基礎研究を行なってきた。角膜上皮のスクラッチモデルを作成し、 PACAPを点眼することで上皮細胞の修復を行うことが動物モデルを使って達成できた。さらにその実体研究を明らかにすべく、ヒト角膜上皮培養細胞を用いてスクラッチモデルでPACAPの作用を調べたところ、PACAPはPAC1Rを介して細胞増殖を行うことが立証された。以上のことから、PACAPは角膜上皮細胞の再生および新生に直接関与していることが明らかになった。これについては昨年度特許申請を行なった。昨年度はこれらについての論文作成を行ない論文投稿する予定であったが、申請者が星薬科大学から湘南医療大学に異動し、また異動先の建物が建築中であり最後の実験が全くできない状況になった。本年3月から新しいラボが本学に構築できたので、そこで本研究を1年間延長し、令和5年までには予定通りの研究を遂行して論文発表を行う予定である。
3: やや遅れている
PACAPの角膜上皮細胞への生理的な作用を我々は機能形態学的に検索してきた。その結果、このペプチドには神経細胞の再生・新生作用のあることが分かり、令和2年度からPACAPによる角膜上皮の再生・新生作用についての基礎研究を行なってきた。まず角膜上皮傷害モデルを用い、PACAPを点眼すると上皮細胞の修復を行うことを動物モデルで実証した。さらにその実態を明らかにするために、ヒト角膜上皮培養細胞を用いたスクラッチモデルでPACAPの作用を調べたところ、PACAPはPAC1Rを介して細胞増殖を行うことが立証された。さらにこの分子制御機構を調べたところ、PAC1Rの下流に核内の転写因子であるNR4A1が存在し、これをPACAPが脱リン酸化することにより上皮細胞の増殖が生じること、さらにこの因子をリン酸化すると細胞増殖が有意に抑制されることが明らかになった。 以上のことから、PACAPは角膜上皮細胞の再生および新生にも直接関与していることが明らかになり、ドライアイの予防・治療以外にも臨床的に角膜上皮再生の創薬に結びつく可能性のあることが推測される。これについてはすでに昨年中に特許申請を行なった。現在は、論文作成のための追加実験を行なっている。昨年度には本研究計画を終える予定であった。しかし、申請者が星薬科大学から湘南医療大学に異動したため、さらに本学は建築中でありラボが使えずに1年間実験ができなかった。本年度はラボが使用できるので、最終目的となる追加実験を行い、論文作成と論文投稿を行いたいと考えている。
PACAPは角膜上皮細胞の再生および新生に直接関与していることが明らかになり、新たにドライアイ以外にも臨床的に角膜上皮再生の創薬に結びつく可能性のあることが実証された。このことは、本研究の当初の目的であるドライアイの新規予防治療法の開発についての副次的な成果であると言ってよい。しかし、ドライアイ患者の多くは高齢の女性で特に顕著に発現し、しかもドライアイによる角膜上皮の乾燥による上皮表面の円滑性の喪失、さらに上皮の増殖や肥厚による角膜内における血管新生などの障害が起きてくることはよく知られている。従ってドライアイの進行によって角膜上皮細胞自体の変性が起きることから、それを防止することもドライアイ患者にとっては必要である。今回の我々の研究においてPACAPはドライアイを予防するだけではなく角膜の再生や新生にも寄与するという画期的な新規点眼薬の開発に大きく寄与すると考えられる。すでに我々は、角膜上皮の保護や再生についても特許申請を行なっており、さらに現在はこれについての論文作成を行ない論文投稿 (Nat Commun)の準備している。 ところで、新規のPAC1Rのスーパーアゴニストについては受容体の結晶化をするための準備を行なっている。溶液中でこの受容体と特異的に結合できる抗体を得るために時間かかっており、受容体の結晶化についてはまだ成功していない。しかし、これについては鋭意努力中であるので近い将来には抗体を作成し、次のステップに進むことを計画している。最終的には低分子化合物の合成まで1-2年先を目指して研究を進めていく計画を立てている。
申請者が星薬科大学から湘南医療大学に昨年の令和3年4月に異動したが、建物が建築中であり、ラボの構築もできていなかったために動物実験を始めとして培養系の実験などほとんど行うことができなかった。そこで当初購入を予定していた、実験動物の購入費や試薬類の購入もほとんどできなかった。また新型コロナ禍による国際国内学会の中止等で旅費が不要であったため令和3年度の予算はほとんど令和4年度に持ち越しとなった。ただし、本研究に関する論文については令和3年にドライアイについての総説論文を2編ほど国際雑誌に掲載したので論文投稿料や掲載料などが発生した。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 4件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 1件)
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