研究実績の概要 |
脂肪酸は、二重結合の有無により飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸に分類される。その中、天然の不飽和脂肪酸の二重結合は殆どがシス型を示す。一方、二重結合がトランス体の脂肪酸は、硬化油製造過程等で非意図的に生成するものと、反芻動物等により生合成されるものがあることは知られていた。近年、多数の毒性学的知見の集積により、食品中のトランス脂肪酸を過剰摂取することにより、虚血性心疾患等の疾病の誘発、さらには肝疾患や糖尿病等の疾患のリスク因子として警鐘を鳴らすようになった。それに伴い、世界保健機関 (WHO) は、ヒトの1日の総エネルギー摂取量の1%以下にすべきと勧告している。しかし、トランス脂肪酸の健康影響評価研究では、従来の分析及び毒性研究の対象となったトランス脂肪酸は、全て二重結合がトランス型の不飽和脂肪酸であり、シス-トランス型の不飽和脂肪酸の摂取レベルや健康影響に関する報告例が極めて少なかった。そこで、代表者らは、オレイン酸(n-9系)に加えて、リノール酸(n-6系)とα-リノレン酸(n-3系)の脂肪酸異性体14種(シス体を含むC18:1△9;2種、C18:2△9,12;4種、C18:3△9,12,15;8種)を新規合成し、それら標準物質を加えた全59種類の脂肪酸(C14~C22)の分析法を確立し、様々な食品、母乳、血液試料等を用いて検討を行った。その結果、全試料中にトランス等脂肪酸が検出されたこと、並びにマーガリンで高比率であったリノール酸及びα-リノレン酸のシス-トランス体が母乳中でも高比率で検出されたこと、更に生体試料である同一人物の母乳と血清試料中のトランス等脂肪酸の組成パターンがかなり異なっていることを観察した。次に、母乳試料中に高濃度で検出されたエライジン酸(C18:1△9)を含む飼料を、マウスに2ヵ月間摂取させたところ、対照群のマウス体重の約2倍以上の増加が観察された。
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