研究課題/領域番号 |
20K20412
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 朗 大阪大学, 理学研究科, 助教 (40362610)
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研究分担者 |
廣川 守 公益財団法人泉屋博古館, 学芸課(本館), 館長 (30565586)
長柄 毅一 富山大学, 学術研究部芸術文化学系, 教授 (60443420)
南 健太郎 岡山大学, 埋蔵文化財調査研究センター, 助教 (60610110)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミューオン / 青銅器 / 博物館 / 非破壊分析 / 元素分析 / オンサイト分析 |
研究実績の概要 |
本研究では、貴重な文化財資料の内部組成を、博物館に居ながらにして、資料を全く傷つけずに分析する新しい手法を開発し、貴重文化財における科学分析の新しい時代を開拓しようとするものです。そのために、宇宙から地上に絶えず降り注いでいる「宇宙線ミューオン」を活用した、「宇宙線ミューオンX線分析法」の実現を目指します。特に、古代青銅器の分析に注目して、青銅器の元素組成や鉛同位体比を宇宙線ミューオンを用いて分析する技術確立に挑戦します。実際に開発した装置を博物館に設置し、古代青銅器の鋳造技術や産地同定の可能性を検証する計画です。本手法は、考古学・文化財科学のみならず、貴重資料を有する様々な分野においてもオンサイトによる科学分析の可能性を拓くと期待されるものです。 本年度は、2019年度に開発したミューオンX線分析システム試作器を用いて、標準試料による成分分析・濃度が既知の標準試料を用いた分析実験を阪大内で行いました。システムの稼働試験と長時間測定を実施して、測定結果をシミュレーション計算と比較検討し、問題点やの洗い出し、次の測定ステップに向けたシステムの改善策を練りました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3組のシンチレーション検出器、1台の電動冷却式のゲルマニウム半導体検出器、及びデータ収集回路から構成される宇宙線ミューオンX線分析システムの試作器を組み上げ、大阪大学構内において、標準的な試料を用いた長期測定を実施しました。試料としては、純銅、鉄、アルミニウム、ポリエチレンを使用しました。シンチレーション検出器のヒット情報を使用して、宇宙線が試料に降り注いだ事象を選択するトリガー作成、およそ1ヶ月に渡りデータを収集しました。収集した生データは、宇宙線ミューオンが試料に停止しないケースのデータも含まれるため、シンチレションカウンター検出器の信号波高情報を使用したオフラインデータ解析における事象選別を行いました。その結果、ゲルマニウム半導体検出器で取得したX線のエネルギースペクトル内に、明確な銅、鉄のKαミューオンX線ピークを観測することに成功しました。一方、比較的エネルギーの低い、炭素やアルミニウムのKαミューオンX線ピークは、背景事象に埋めれており、この測定時間の統計ではピーク判別がむずかしいことがわかりました。また、Geant4ベースのシミュレーション計算と本測定結果を比較し、背景事象やピーク統計量の理解を進めました。試作器による標準的な試料の長期測定試験は成功を収め、次期長期測定に向け改善すべき点も明らかになりました。
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今後の研究の推進方策 |
次のステップは我々が鋳造した青銅器を分析することです。鋳造を得意とする長柄氏の協力により、古代青銅器の組成比を模した青銅器を鋳造します。蛍光X線分析などであらかじめ組成比を測定しておき、宇宙線ミューオンX線分析の結果と比較します。測定器システムは、この青銅器の大きさに最適化したものに改造します。さらにシンチレーション検出器のエネルギー分解能を向上させるとともに、データ収集のタイミング分解能も改善することで、背景事象を削減します。鋳造青銅器測定の次は、博物館でのオンサイト分析に移行します。開発した分析システムを泉屋博古館に持込、同館が所蔵する青銅器の分析に挑戦します。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により他機関に赴いての共同研究が出来なくなり、検出器システムの最終設計に必要な共同研究の実施が困難となり、システム仕様の年度内決定が困難となった。そのため、その購入予算を次年度に使用することとした。
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