研究課題/領域番号 |
19H05495
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
栗林 勝彦 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (40249751)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2023-03-31
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キーワード | ディフェオロジー / de Rham の定理 / 反復積分 / スペクトル系列 |
研究実績の概要 |
研究初年度は,課題Iの「ディフェオロジカル空間 (diff-空間)に対する de Rhamの定理の定式化とその証明」を考察するために,アフィン空間の持つ余単体性を利用して単体的de Rham複体を導入した。この単体的複体の拡張可能性と非輪状性を示すことに成功し,続けて特異コチェインへの積分写像が擬同型であることの証明に取り掛かった。拡張可能性を持つ単体的複体のテンソル積がその拡張性を保つことを利用することで,最終的にde Rhamの定理を証明する道筋を得た。また単体的de Rham複体に関するスペクトル系列を構成するために,使用したアフィン空間をD-トポロジーのもとで,コンパクト部分集合に置き換えた変形単体的de Rham複体も導入し考察を進めた。オリジナルの単体的de Rham複体と変形版との擬同型が証明出来たことで,スペクトル系列の構成の手続きも一気に加速することになる。これらの結果を論文としてまとめ,学術専門雑誌に投稿する準備を行った。 研究交流に関しては,研究集会Building-up Differentiable Homotopy Theory 2020を九州大学の岩瀬則夫氏とともに世話人となり信州大学で開催した。本研究集会に海外から3名のディフェオロジー研究者,Patrick Iglesias-Zemmour (The Hebrew University of Jerusalem), Serap Gurer (Galatasaray University), Dan Christensen (University of Western Ontario)を招き,ディフェオロジーの基礎部分の概説を含む複数回の研究発表を行っていただいた。本研究集会を通じて,diff-空間がつくる圏のモデル圏構造や,次年度以降の研究に関連する重要な結果について議論を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では初年度に課題Iの証明に取り掛かり,2021年度に完成させる予定であったが,単体的de Rham複体を選ぶことにより課題遂行のための道具や命題・補題を整備することができディフェオロジーにおけるde Rhamの定理の証明を完成させることが2020年度中に可能となった。また,Chenの反復積分をディフェオロジーの枠組みで書き,バー構成から単体的de Rham 複体への写像を構成できたことも特筆できる。さらに,Leray-Serre型及びEilenberg-Moore型スペクトル系列を構成するためのアイディアも本研究上で得ることができた。こうして導入した新de Rham複体の応用可能性が広がった。 また上述の研究集会において講演および議論のため当初,海外から招へいを予定していた研究者2名の来日が,コロナ禍のためキャンセルとなった。しかし,急遽,参加されていた国内外講演者の方に追加の講演をお願いし研究集会を充実させることができた。講演者および参加者の方とトピックスを絞り込みより深い議論が可能となったことは不幸中の幸いといえる。以上の理由により「当初の計画以上に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度,課題Iの研究を完成させるための道具がほとんど全て揃ったと言える。これらの結果を最大限効果的に利用して課題Iを完成させる予定である。また本研究の中で,Souriauのオリジナルの de Rham複体から単体的de Rham複体への次数付き微分代数の射である「因子写像」を定義した。新de Rham複体をディフェオロジー研究の中で孤立させないためにも,この因子写像がいつ疑同型になるかその例を探ることが重要になる。実際,既知のde Rham計算に対して,単体的de Rham複体による解釈が期待できるからである。そこで岩瀬-泉田の可微分CW複体やKreckの意味の階層体が定義するdiff-空間の場合に因子写像が擬同型になるかを考察する。さらに,上述の2つのde Rhamコホモロジーの比較を進めるために,Iglesias-Zemmourが導入したCech-de Rhamスペクトル系列を利用する。因子写像の考察をこのスペクトル系列に組み込み,収束先の同一性を利用することで,「比較定理」を正確に命題化し証明を行う予定である。また,単体的de Rham 複体の有用性を示すためにLeray-Serre型とEilenberg--Moore型スペクトル系列を完成させ,その応用として計算例を考察する計画である。 上記計画を確実に遂行するためには,専門家との意見交換が重要になる。そのためにBuilding-up Differentiable Homotopy Theory 2021を開催し国内外のディフェオロジーおよび関連研究者と議論を深める。オンライン/ハイブリッドによる開催の形態も考慮しながら計画を進める予定である。
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