研究課題/領域番号 |
20K20424
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
栗林 勝彦 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (40249751)
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研究分担者 |
木原 浩 会津大学, コンピュータ理工学部, 上級准教授 (60254116)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ディフェオロジー / スペクトル系列 / Souriau-de Rham 複体 / 特異de Rham 複体 / 因子写像 |
研究実績の概要 |
ディフェオロジーのde Rham計算を支えるSouriau-de Rham複体と特異de Rham複体はコホモロジーレベルでもその違いが現れる。研究代表者が本研究で導入したSouriau-de Rham複体から特異de Rham複体への微分代数の射「因子写像」に関して,コホモロジー上での振る舞いを探った。特に2021年度は,Iglesias-Zemmourが構成したCech-de Rhamスペクトル系列を用いて,1次元および2次元において2つのde Rhamコホモロジーの比較を行なった。その差を測るために上のスペクトル系列の特異de Rham複体に関するエッジ写像の単射性を考察した。鍵となるのは「因子写像」がそれぞれの複体から得られるCech-de Rhamスペクトル系列の間にスペクトル系列の射を誘導することである。ディフェオロジカル空間(diff-空間)のネブラと呼ばれる空間のコホモロジーへ向かうエッジ写像は,Souriau-de Rham複体の場合は同型になるが,特異de Rham複体の場合は一般に考察されていない。そこで,diff-空間Xがバンドルの底空間に現れそのファイバーと全空間が多様体である場合,Xの1次元および2次元におけるエッジ写像の性質を上述のスペクトル系列を比較することで詳細に調べた。その結果「1次元は常に単射である」「2次元のエッジ写像のカーネルはファイバーの1次元コホモジーの次元以下である」という結果を得た。さらに,これらエッジ写像の考察により, 無理数トーラスの特異de RhamコホモロジーはSouriau-de Rhamコホモロジーからの「因子写像」の像と, 幾何学的な情報であるバンドルの分類元(特性類)を生成元とする外積代数と同型になることを示した。この結果は2つのde Rhamコホモロジーの差が何かを示した初めての例と言える。これらの結果を論文としてまとめ,学術雑誌Proceeding of the AMSに発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究はde Rham理論の複線化を掲げている。単体的的de Rham複体に関するde Rhamの定理の完成を受け,2021年度は「2つ」のde Rham 複体の比較研究を遂行し,それら結果の学術雑誌への発表まで行うことができた。2022年度2月または3月に岡山で開催を計画していた国際研究集会Building-up Differentiable Homotopy Theory 2022はコロナ禍のため中止とした。しかし,ディフェオロジー研究に関連する情報収集のためにEnxin Wu(汕頭大学, 中国)およびPatrick Iglesias-Zemmour(ヘブライ大学, イスラエル)を世話人とするマンスリーオンラインセミナー・情報交換サイト Diffeology Net (https://diffeology.net/)に運営委員として参画した。6月にはこのセミナーでディフェオロジーにおけるde Rhamの定理に関して講演を行い,さらにそのセミナーの中でも課題II(後述)につながる貴重なアイデアを得ている。2022年度3月まで計10回開催されたDiffeology Netウェビナーでは,diff-空間における層理論,ホモロジー代数的結果,数理物理的応用などディフェオロジーの幅広い展開が議論されている。これらに参加し,課題IIに向けた情報収集が着実に進んでいる。昨年度に引き続き,コロナ禍の中,ウェビナーやweb状での研究コミュニティーの確立など新しい研究形態により本研究を遂行する上で有益な多くの情報が得られている。以上の理由により「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までに,課題Iの「ディフェオロジカル空間に対するde Rhamの定理の定式化とその証明」が完成し, 因子写像による2つのde Rham複体の比較研究も進んでいる。2021年度末から取り組んでいる課題 II 「ディフェオロジカルde Rhamホモトピー論,有理ホモトピー論的モデルの構築と応用」にも進展がある。まず,Gomez-Tato -Halperin-Tanreによる局所系を用いた非単連結空間のBousfield-Kanファイバーワイズ有理化の手法に着目した。この理論構成から単体的集合の圏での考察部分を抜き出す事ができ,位相空間の圏との分離がうまく行えることがわかってきた。さらに課題Iで導入した,単体的特異de Rham複体が,上述の局所系理論を展開するために必要な条件を満たしていることが確認できた。こうして,非単連結diff-空間の有理ホモトピー論の青写真が出来上がっている。木原浩氏(会津大学)は近年,diff-空間の圏 Diff にモデル圏構造を導入し,さらにDiffと単体的集合のKan-Quillen モデル圏とのQuillen同値性を証明した。これらモデル圏構造を本研究に応用するために,研究分担者として木原氏に参画していただき,課題IIの研究を進める体制を整えた。実際,上述の青写真にDiff のモデル圏構造を組み合わせることで,diff空間の単体的集合上の局所系を用いたファイバーワイズ有理化が得られると考えている。この非単連結diff-空間の有理ホモトピー論の中で,ベキ零(または単連結)diff-空間および位相空間の有理ホモトピー論がどのように解釈できるかの研究も進める予定である。この考察により位相空間のSullivan極小モデルやQuillenの微分Lie代数モデルに対応するディフェオリジカル版を得ることが可能になり,diff-空間のde Rham計算をより代数的な枠組みから行える手法の確立が大いに期待される。最終年に向かいこのような本研究を着実に遂行する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため国内外から研究者を招へいして研究研究集会・セミナーを開催することができなかった。主にオンライン開催のための機器整備や謝金に予算を使用したが,全体的な研究計画の変更を余儀なくされた。次年度以降はこの状況が改善されることを念頭に研究集会開催のため予算を利用する。また改善されない場合を考慮し,新しい研究形態の確立に向けてハイブリッド対応のセミナー・研究集会のための機器整備も進める計画である。さらに特任助教を雇用することで, 研究最終年度の研究を確実に遂行するとともに,バイアウト制の利用により教育補助者の雇用も行う計画である。
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