研究課題/領域番号 |
19H05498
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 弘司 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (20200735)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2025-03-31
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キーワード | 放射崩壊 / ディスラプション / サポートベクターマシン / 全状態検索 / スパースモデリング / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はデータ駆動型アプローチにより、非平衡開放系にある磁場閉じ込めプラズマの挙動について、従来の要素還元によるモデル化や統計回帰解析による帰納的な見方を越えた発見的な新しいものの見方を提案することである。磁場閉じ込め実験が核融合燃焼実験を迎えるに当たって最重要課題である乱流による自律的な非平衡状態の存続時間及びその存続を突発的に破壊する現象に焦点を当てる。研究計画の初年度の取組として,計算機資源を中心とした研究設備の整備を進めた.本研究課題の遂行上、基幹となる研究設備は大容量のデータを高速に統計解析し、また機械学習に適切なGPUを擁した計算機を選定し購入した。現在稼働中の大型ヘリカル装置(LHD)では1実験当たり30GB、1実験日で5TBのデータが生産されている。これらのデータを取捨選択しつつ取り込み処理する能力が求められる。これらに対応できる通信やデータ蓄積機器を核融合科学研究所および東京大学において整えた.並行して、6年間で研究計画を完遂するための研究の時系列展開を定義する作業を、研究対象とする核融合プラズマの実験装置運転計画との整合性と研究協力者との役割分担に留意して、関係者との情報・意見交換を通じて行った.これまでの研究の評価を俯瞰する作業を行い,学会誌に解説記事としてまとめ,また統計数理の専門家との意見交換の機会を設けた.最初の研究対象としてLHDで見られる放射崩壊とJT-60SAで見られる電流ディスプラションを取り上げた。この両方において、広範なデータセットを取得編集し、サポートベクターマシンによる2値分離と全状態検索によるデータ抽出を組み合わせたスパースモデリングを検討した.この手法による研究の海外展開のため,米国ジェネラルアトミックス社との共同研究に着手した.以上これらの初期結果について国際会議および国内学会において発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は本研究課題に取り込むためのハードおよびソフトの計算機環境を整備することと,具体的に対象とする現象とその条件を絞り込んで,手法の開発に着手することを目的とした.計算機環境については中心となるGPU計算機の選定と購入を行い,運用を開始した.周辺には,支援するためのソフトウェアを備えた計算機や,遠隔地からのデータ転送・ネットワーク環境と十分記憶媒体を整備した.磁場閉じ込めプラズマの高性能化という観点で価値が高い,高圧力運転と高密度運転では,それぞれに運転限界があり,運転限界に近づくにつれて,突発的な崩壊現象が見られることが経験知として広く知られている.このような突発崩壊現象として,JT-60SAでの高ベータディスラプションと大型ヘリカル装置(LHD)での放射崩壊に取り組み,データ駆動型アプローチによって高精度の予知器の開発を目指した.手法としては,物理機構の説明可能性を議論できること必須とした.これは機械学習の結果は帰納的論理に欠けることから,物理側からのアプローチを相乗,補完することが高い精度の予測には必要不可欠と考えるからである.このため,統計学的機械学習の手法であるサポートベクターマシンと鍵となるパラメータを定量的評価に基づいて評価する全状態検索によるスパースモデリングを採用した.現象を2値分類問題として定式化し,候補となる入力パラメータは観測値の対数を取ることによって,得られたモデル判別式(分離境界の表現式)をべき乗則で表現することした.分離は完全でないことが,現象が確率的に生じることからの必然であり,一方,尤もらしい分離境界からの距離と,その発生頻度を定量的に対応づけることができることを実験データによって示した.米国機関との共同研究に着手したものの,年度後半に予定していた海外機関の研究打合と国際会議での成果発表はコロナ禍の発生により,見送らざるを得なかった.
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今後の研究の推進方策 |
本報告の対象は2019年度についてであるが,新型コロナウィルス禍を原因とした事故繰越を行ったため,旧時ではなく報告を実際に行っている2022年度当初時での状況をもとに述べることが適切と考える.研究計画はおおむね順調に進んでいるが,海外渡航がままならない状況に変わりはなく,国際的な共同研究と国際会議における対面での成果発表が先送りとなっている.一方,国内では状況はやや好転し,オンライン・リモートでの実験参加などの整備が相当に進み,特にLHDを用いた実験研究は期待以上に進んでいる.これまでの実績の上に,手法の高度化とモデルの汎化性能の向上を図る。機械学習では帰納論理に限界があるため,信頼性を高めるには異なった物理的考察と組み合わせることが肝要である.モデルから物理的な仮説をたて,理論シミュレーションとの対比や能動的実験で検証を進める.前者では仮説に沿った理論シミュレーションと実験との比較および先行研究による現象論としての考察の再評価,後者ではモデル表現式による合成信号を帰還制御や摂動印加に利用し,その応答観測により、変化可能性の閾値、応答遅れ時間およびヒステリシスなどを評価する。また,これまでは時刻ごとに切り出されたデータを集積していたが、時系列データを対象とした主成分分析など、変化の検知の観点から因果関係に迫る試みも進める。また、対象とする現象として、ディスラプション(高ベータ状態の存続)と放射崩壊(高密度状態の存続)にプラズマ対向壁の熱負荷軽減方策として運転上も極めて重要な課題である非接触化の発現条件とその維持を重要課題として取り上げて研究を進める。最終段階においては、得られた方法論を国際協力によりW7-Xステラレータ(独)で検証することと、新たな国内の大型実験プラットフォームとなるJT-60SA(量研機構)でのディスラプション予知・回避法について共同研究者と検討する.
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