研究課題
本研究の目的はデータ駆動型アプローチにより、磁場閉じ込めプラズマの挙動について要素還元によるモデル化や統計回帰解析による帰納的な推定を越えた発見的な仮説を提案することである。特に自律的な非平衡状態の存続時間及びその存続を突発的に破壊する現象の予知に焦点を当て、予知モデルの精度向上とその説明可能性の追求を行っている.具体的な対象としてトカマクプラズマのディスラプションとヘリカルプラズマの高密度運転と放射崩壊を選び,方法論の確立を進めている.LHDにおけるプラズマ実験データに基づき,高密度運転時に発生するプラズマ崩壊現象の発生可能性を崩壊の有無という2値分離問題として定義し、機械学習の一つであるサポートベクターマシンと全状態探索を用いたスパースモデリングの方法論から分離を決定する決定関数(べき乗則)を求めた。この決定関数は予知精度を損なわない制約のもとで選択された重要なパラメータからなる.さらにこの決定関数を学習に用いられていないより広範な実験データを用いて評価した結果,決定関数による境界から運転動作点までの距離と崩壊発生頻度が相関し,崩壊発生確率を定量的に示すことができることを示した.これらの研究成果を2編の査読付き論文に公表するとともに,国内学会で3回,国際学会で4回の発表を行った.このうち国際学会発表1件は招待講演である.また,トカマクプラズマのディスラプションについても,これまでの多項式による線形表現での予知性能の向上から,べき乗則による表現とディスラプション発生可能性の定量化へと進化させ,査読論文投稿まで進めた.
2: おおむね順調に進展している
進捗状況はおおむね順調に進展していると考えられる.令和2年度においては新型コロナウィルス感染症の流行により、計画していた国内のLHD実験はもとより,海外のW7-X実験(独),DIII-D実験(米)に一定期間滞在しての実験遂行、情報収集及び研究成果発表のための学会出席などのための国内外の出張がことごとく不可能となった。このため、これらの計画は令和3年度以降に繰り延べることとなった.一方,このような環境にあっても,LHD実験では従来より相当程度整備されていたリモートアクセス環境が,さらに高度化されると同時に受け入れ側の人的体制も整えていただくことができた.これによって,LHD実験とその解析にあたっては,当初の計画以上の進展を得ることができた.研究対象とする高密度運転で生じる崩壊発生確率をプラズマ運転時に実時間で計算することにより,実際の運転に対して警告を出し,燃料注入量やプラズマ加熱パワーの追加を帰還制御することによって崩壊を回避しつつ高い密度の運転を安定に長時間維持できることの原理検証に成功した.この崩壊現象は加熱入力と放射損失間の熱的不安定性が原因と考えられるが,プラズマの空間的時間的変化と崩壊の物理的因果関係は未だ同定されていない.本研究でとっている機械学習の方法論は統計概念に基づいており,ニューラルネットワークによる方法論と異なり,得られた表現の説明可能性から背景にある物理機構解明へのヒントが得られる.このことから崩壊発生確率が上昇していく時間帯におけるプラズマ中の輸送現象に着目し,周辺プラズマ輸送コードによるシミュレーションを用いて考察することに着手した.低電離状態の炭素の挙動についてのシミュレーションと実験観測の比較を進めることができつつある.
目的を達成するために,現在対象としているトカマクプラズマのディスラプションとヘリカルプラズマの放射崩壊についてのさらにモデルの汎化性能の拡大とモデルの説明可能性を追求するとともに,W7-X(マックスプランクプラズマ物理研究所、独)ステラレーターおよびJT-60SAトカマク(量研機構)とDIII-Dトカマク(米国GA社)などへの比較研究の拡充を図る。LHDにおける実験研究では,高密度運転で観測される放射崩壊現象に加えて周辺プラズマの非接触化についてこれまで得た方法論(サポートベクターマシンによる2値分類とスパースモデリングを用いて求めた分類境界からの距離と崩壊のlikelihoodとを照合する)を応用する.非接触化も接触状態との2値分類問題として定義できると同時に,プラズマ対向壁の熱負荷軽減方策として運転上も極めて重要な課題である.モデルの表現から推定される物理過程の説明可能性について理論シミュレーションによるパラメータサーベイから議論する。シミュレーションから得られた知見によるセミパラメトリックな探索を加え、モデルの高度化を図る。さらに崩壊や非接触化のlikelihoodを定量化した予知器を製作し、この予知器を実際の高密度プラズマ放電における放射崩壊の回避および非接触化状態の維持に応用する。この帰還制御によって、その際のlikelihood閾値、応答遅れ時間およびヒステリシスの関係を評価する。これらの実験をもとにハザード関数を用いた生存時間の解析も図る。また、JT-60Uトカマクの高ベータディスラプションについての成果をまとめ、それを元に、新たな実験計画であるJT-60SAトカマクへの応用を考察する。さらに国際協力により,得られた方法論をW7-Xステラレータ(独)およびDIII-Dトカマク(米)において新型コロナウィルス禍でもできる範囲で検証することを共同研究者と検討する.
令和2年度において新型コロナウィルス感染症の流行により、計画していた国内外の学外研究機関へ一定期間滞在しての実験準備と遂行が不可能となった.また,情報収集、研究成果発表の機会となる学会などの研究集会についてもことごとく中止,延期,オンライン開催となった.今後,状況は徐々に改善し,交付期間の後半においては米国およびドイツなど海外での共同研究も可能となると期待する.これらの申請時の計画にはなかった状況の変化に対応するため,旅費を中心に予算計画としては後年度へ移行させた.一方,リモートによる実験準備,遂行,解析を円滑に行うためのネットワークや計算機環境を整備・高度化することが申請時の計画よりも必要となる.
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Plasma and Fusion Research
巻: 16 ページ: 2402010
10.1585/pfr.16.2402010
Journal of Fusion Energy
巻: 39 ページ: 500-511
10.1007/s10894-020-00272-3