研究課題/領域番号 |
19H05507
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村山 明宏 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (00333906)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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キーワード | スピントランジスタ / 光スピンダイナミクス / 半導体量子ドット / スピン増幅 / スピン位相 |
研究実績の概要 |
現代の情報社会を支える電子情報処理や光通信においてはエネルギー熱損失の解決が大きな課題である。この問題を解決するためには、光電融合エレクトロニクスと不揮発性の電子スピンメモリを活用する研究が重要である。特に、電子スピンと光のスピン情報である円偏光の間の光電変換素子が必要となり、スピン偏極電子の電流注入により円偏光を発するスピン発光ダイオードやレーザ等の二端子素子が研究されている。 そこで、新しい光スピン機能の開拓に向けて、円偏光の入力により生成する電子のスピン状態を外部電界により制御可能な光スピントランジスタを研究する。電子や円偏光のスピン極性を電界により切り替え、さらに電子スピンや円偏光特性の偏り度合いで与えられるスピン偏極の増幅を実現する。そして、最終目標として、スピンの持つ本質的な情報であるスピン位相の電界制御にも挑戦する。 今年度は、二次元電子系であるInGaAs量子井戸と量子ドットからなる独自の結合量子構造を用いて、量子井戸に生成したスピン偏極電子をトンネル効果により量子ドットに注入する電界効果型スピン注入発光素子を作製した。素子構造の詳しい検討を行うため、量子井戸やトンネルバリアの厚さを系統的に変えた試料を分子線エピタキシーにより作製し、光学活性層の結合ポテンシャルやスピン注入トンネル確率の違いが電界効果に与える影響を研究した。その結果、特定のバイアス印加時に、量子井戸とドットの間でドット濡れ層を介した新しい共鳴スピントンネル励起状態が形成されることを明らかにした。この共鳴状態は2次元の井戸と0次元のドットの電子波動関数を滑らかに接続し、非常に効率的な電子スピン注入を可能にすることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二次元電子系であるInGaAs量子井戸にスピン偏極電子を円偏光励起により生成し、トンネル効果により光学活性層である量子ドットへとスピンを注入する電界効果型スピン機能発光素子を作製している。この素子では、特定のバイアス印加条件において、ドットに注入した電子スピンを電界により反転制御することが低温では可能になっている。 今年度は、まず素子構造と作製プロセスの詳しい検討を行い、電界印加時のリーク電流の抑制により均一かつ効率的な電界印加を可能にした。また、量子井戸やトンネルバリアの厚さを系統的に変えることで、光学活性層の結合ポテンシャルやスピン注入トンネル確率を変えた試料を分子線エピタキシーにより作製し、井戸から量子ドットに注入する電子スピン特性の電界依存性に与える影響を研究した。その結果、特定のバイアス印加時に、2次元の電子波動関数を持つ井戸と0次元のドットを滑らかに接続可能な新しい共鳴励起状態が形成され、非常に効率的な電子スピン注入が可能になった。 次に、希薄窒化GaNAs半導体試料を分子線エピタキシーにより作製し、その組成や結晶成長条件の検討を行っている。このGaNAsでは、窒素添加により生じるGa空孔に少数個スピンが選択的に緩和することで、伝導帯の多数個スピンの個数比が相対的に増加し電子スピンの偏極特性が向上することが知られている。そこで次年度以降、ドットに注入する電子スピンの偏極特性を向上させ、光スピン機能素子への応用を図っていく。 量子ドット発光の測定に関しては、円偏光励起による電子スピンの生成と量子ドットにおけるスピン状態と円偏光特性を検出するため、微細な素子構造を測定可能な顕微発光分光システムを整備した。本年度は、量子ドットの発光波長である赤外領域の測定が可能な分光検出器を導入し、ドットの基底状態における電子スピン状態や円偏光特性の検出感度を大幅に高めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
InGaAs量子井戸とドットの結合量子構造により、量子ドットに注入する電子のスピン状態を反映する発光の円偏光特性を電界により反転制御する、電界効果型のスピン機能発光素子を引き続き作製していく。特に、ドットでのスピン反転を引き起こす電子・正孔スピン散乱を増強するため、量子ドットに正孔を供給するリモートpドーピングとその詳しいドーピング濃度依存性を研究する。それにより、素子の発光強度と電界により反転可能なスピン偏極度の両者を最大化するための、ドーピング濃度の最適化を図っていく。併せて、スピン注入直後の量子ドット励起状態において、井戸から注入された電子スピン特性を直接検出可能な円偏光発光の時間分解測定を行い、電界に依存するドット中のスピン反転ダイナミクスを明らかにする。 次に、希薄窒化GaNAs量子井戸と量子ドットを組み合わせて、量子ドットに注入する電子スピンの偏極特性、特に高温動作特性を向上させることで、実用を目指した光スピン機能素子への応用を検討して行く。また、円偏光を用いる時間分解発光分光により、量子ドットからの発光におけるGaNAs中の電子スピン歳差運動を反映するスピン位相情報の検出を試みる。 さらに、発光円偏光特性の測定に関しては、導入した赤外領域の分光検出器により、量子ドット基底状態における電子スピン状態や円偏光特性の研究を進める。そして、電子スピンの位相ダイナミクスを計測する円偏光発光のハンル効果測定にも応用していく。
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