現代の情報社会を支える電子情報処理や光通信において、電力エネルギーの熱損失の解決が大きな課題である。その課題の解決には、信号の配線や伝送に光を用いる光電融合エレクトロニクスと不揮発性の電子スピンメモリを活用するスピントロニクスの研究が重要である。本研究では、半導体を用いる光電融合スピン機能の開拓に向けて、光のスピン状態である円偏光の入力により生成する電子のスピン状態を外部の電界により制御可能な光スピントランジスタを研究する。電子のスピンや円偏光特性の向きの偏り度合いで与えられる偏極度やその極性をエレクトロニクスの基本技術である電界により制御し、さらに電子のスピン偏極の増幅とその電界制御を実現していく。 まず、二次元電子系であるInGaAs量子井戸と量子ドットからなる独自の結合構造を用いた光学活性層を持つ電界効果型スピン機能光デバイスを作製し、低温から室温までの温度領域でその動作特性を明らかにした。特に、低温ではあるが、スピン極性の電界反転を実現している。 さらに、室温においてスピン偏極の増幅機能を持つ希薄窒化GaNAs量子井戸を円偏光受光層に活用し、スピン偏極発光層であるInAs量子ドットとトンネル結合した世界的にも新規の電界効果型光スピンデバイスを作製し、室温までの動作特性を研究した。その結果、室温において、電界により電子と光のスピン偏極度を20%以上の範囲にわたって制御し、さらに、GaNAs量子井戸でスピン偏極が増幅された電子のドットへの注入ダイナミクスも電界で制御できることを明らかにした。 電界によるスピン位相の制御に向けては、GaNAs中の伝導電子のスピン歳差運動による発光円偏光極性の時間振動を、横磁場を印加する時間分解発光分光測定を用いて直接計測することができた。得られたスピンの歳差運動の角周波数より有効g値を算出し、試料構造依存性や電界印加効果を研究した。
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