本課題では、単一の遷移金属原子に多数の水素が配位した水素錯イオンの高配位化によって発現する高速擬回転を利用し、 固体内で凍結した陽イオンを昇温することなく融解することにより、 通常はイオン拡散が著しく抑制される室温以下の低温領域において、液相をも遥かに凌駕する新たなイオン輸送現象の開拓を目指し、理論・実験の両面から研究を推進した。 最終年度は、モリブデンおよびニオブに水素が9配位した錯イオンを含む2種の物質に対して実施した中性子準弾性散乱実験結果を詳細に解析し、これらの錯イオンが示す再配向運動の緩和時間に極めて広い分布が存在することを見出した。第一原理分子動力学計算による理論解析と併せ、これらの緩和挙動が、リチウムイオン伝導ならびに錯イオン自身の擬回転によるポテンシャルの乱れに起因することを明らかにした。また、モリブデンの9配位錯イオンを含む物質に対して実施した中性子回折実験からは、室温から8Kに至る幅広い温度範囲にて、錯イオンの配向が無秩序を保っていることを明らかにした。
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