研究課題/領域番号 |
20K20439
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
鶴見 敬章 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (70188647)
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研究分担者 |
保科 拓也 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (80509399)
安原 颯 東京工業大学, 物質理工学院, 助教 (20880032)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | キャパシタ / 蓄電素子 / エネルギー密度 / リチウムイオン伝導体 |
研究実績の概要 |
二酸化炭素排出量を抑制し地球温暖化をストップするには、エネルギー密度の高い蓄電装置がキーテクノロジーとなる。現在ある蓄電装置で最もエネルギー密度が高いのはリチウムイオン電池であるが、本研究では安全性が高く繰り返し充放電で劣化しないキャパシタを用いて新しい蓄電装置を作ることを目的としている。 本キャパシタはリチウムイオンの長距離移動により分極を発生する。積層キャパシタとするため電荷質は固体であることが必要である。リチウムイオン伝導体として酸化物系リチウムガラスを選択し、充放電特性を測定したところキャパシタとして機能していることが分かった。本キャパシタがリチウム電池と匹敵するエネルギー密度を得るためには、高電圧駆動が必須である。しかしながら、リチウムの酸化還元電位である約4V以上の電圧を印可すると固体のリチウムイオン伝導体が高電圧化で電気分解することが問題となる。 本年度は、まず、この電気分解の速度を低減するために材料中の水分を除去した禁水系での材料合成を行った。その結果、電気分解の影響は低減できたものの効果は十分ではないことがわかった。そこで電極界面にリチウムイオンの拡散係数を低下させる保護層を挿入するアイデアを出した。この層をファラデー電流バリアと呼ぶことにし、候補材料の1つとしてp型半導体である酸化ニッケルを正負電極とリチウム伝導体の間に挟み充放電特性を測定した。その結果、効率が20%程度から70%以上へと飛躍的に増加した。また、リチウムの酸化還元電位以上である20Vでも、効率は低いものの放電電流が観察され、ファラデー電流バリアの有効性が確認された。この他にも、イオン伝導体をニッケル箔/ファラデー電流バリアでサンドイッチしたキャパシタ構造の作製にも成功した。イオン伝導体については低温焼結でき、イオン伝導性が十分な酸化物材料を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本キャパシタが意味のあるデバイスになるためには高電圧駆動が必須である。キャパシタのエネルギー密度は電圧の2乗に比例するので、現在の液体系電解質の電圧5Vを100Vにできれば、理論的にはエネルギー密度は400倍向上する。しかし、単に液体を固体に変えただけではリチウムの系外への析出は避けられず高電圧動は不可能である。本年度は、ファラデー電流バリアという新しいアイデアで、この問題を解決するための実証実験を行った。その結果、酸化ニッケルをファラデー電流バリアとして有効であることが実験的に確認された。これは本研究の成否を左右する極めて重要な結果である。この結果から、ファラデー電流バリアとしてどのような材料が適切であり、キャパシタを高電圧駆動するためには、どのような材料構造を作らなければならないかを考えることができ、いくつかの候補材料も選定した。また、イオン伝導体中の水分は極限まで低下させなければならないこともわかったので、それを可能にする禁水系での材料合成設備を構築した。イオン伝導体については低温焼結可能で十分なイオン伝導性を持つ材料を開発した。さらに、特性評価についても、定電流法で高電圧の充放電特性を測定するシステムを構築した。以上より、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成否はキャパシタの高電圧駆動が可能になるかどうかにかかっている。次年度はファラデー電流バリアのいくつかの候補材料について評価を行う。これまでは、ファラデー電流バリアを電極とイオン伝導体界面に入れていたが、それでは不十分であるため、両者の積層構造、粒界析出、微粒子分散などの微構造制御が必要となる。積層構造にすればできることはわかっているが、薄層化と積層はコストがかかりすぎるため実用化は難しい。そこで積層と同じ効果をバルク焼成体で作るためのアイデアである「疑似積層構造」の実現を試みる。理論的にはできるはずであるが、有限要素法を用いた電磁界シミュレーションにより、設計が可能であるかを検証する。その後、そのシミュレーション結果に基づき実際に材料を作製し、充放電特性の評価を行う。また、新たに構築した評価システムを用いて、電界によるイオンの長距離移動が発生する分極のダイナミクスについて明らかにする予定である。
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