研究課題/領域番号 |
20K20440
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配分区分 | 基金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
後藤 雅宏 九州大学, 工学研究院, 教授 (10211921)
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研究分担者 |
田原 義朗 同志社大学, 理工学部, 准教授 (30638383)
原田 耕志 山口大学, 大学院医学系研究科, 講師 (60253217)
若林 里衣 九州大学, 工学研究院, 助教 (60595148)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イオン液体 / DDS / 経皮吸収製剤 / 難溶解性薬物 / アビガン / イオン液体液晶 / 経皮ワクチン / バイオ医薬 |
研究実績の概要 |
イオン液体の創薬応用が、最近注目されるようになったが、世界的にも臨床レベルでイオン液体が利用された例は少なく、研究領域として大きく発展するまでには至っていない。そこで本開拓研究では、この問題点を医工連携研究により克服し、これまでの製剤技術の体系や方向性を大きく変革するようなイオン液体研究にチャレンジする。特に、イオン液体を用いた創薬研究においてポイントとなる、薬物利用が可能な安全性と安定性が確認されたイオン液体製剤を開発する。 本研究では、ヒトに安全なイオン液体を創成し(戦略1)その有効性の検証を行うとともに(戦略3)、薬物動体解析による機能評価(戦略2)を繰り返すという、医工連携研究を展開する。本研究では、結果のみを重視しがちな医療従事者に対し、化学工学的機能解析の重要性を共有し、イオン液体の経皮製剤開発をモデルとして、新たな創薬開発の仕組みを構築する。大規模な臨床試験(Phase I~III)を行う前に、戦略1~3のプロセスが有機的に連携することで、より有効性の高い製剤開発の手法を構築し、イオン液体を利用した創薬研究における新分野を開拓する。これまでに、具体的に麻酔薬、がんワクチン、そして最近ではアビガンにイオン液体が有効であることを明らかにしている。 生体適合性のイオン液体としては、素材にコリン、アミノ酸、脂肪酸及びリン脂質を用いて構成したイオン液体が毒性も小さく有効であることを確認した。また、コリンとオレイン酸から構成される生体適合性イオン液体を用いることで、がん抗原ペプチドの経皮ワクチン製剤の構築が可能となった。また、このイオン液体は低毒性であり皮膚刺激性の低い製剤であることを明らかにした。イオン液体によってがん抗原ペプチドの皮膚深部への浸透が達成され、皮膚樹状細胞へのがん抗原ペプチドの効率的送達を可能にすることで、高い抗腫瘍効果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コリンと脂肪酸から構成される生体適合性イオン液体を用いることで、親水性がん抗原ペプチドの経皮製剤化に成功した。また、開発したイオン液体は低毒性であり皮膚刺激性の低い製剤の調製が可能となった。イオン液体によってがん抗原ペプチドの皮膚深部への浸透が可能となり、皮膚樹状細胞へのがん抗原ペプチドの効率的送達を可能にすることで、少ないがん抗原ペプチド量でも高い抗腫瘍効果が発現された。 3次元培養皮膚組織を用いて皮膚刺激性試験を行った結果、低刺激性であることが示唆された。さらに、in vivoで染色した組織切片を顕微鏡により観察したところ、皮膚組織はイオン液体製剤を塗布した場合でもコントロールとしたPBSと同様の状態であり、イオン液体による形態学的変化は確認されなかった。 5週齢のマウスを用いてイオン液体ワクチン製剤の抗腫瘍効果の検証を行った。ワクチン効果は、がん腫瘍のサイズを2日おきに測定し、楕円体積を求める式を用いてがん腫瘍体積を算出し評価した。その結果、イオン液体グル―プでは、注射のグループと比べて有意な腫瘍成長抑制効果が確認され、イオン液体を用いたペプチドの経皮投与が効果的であることが示された。イオン液体グループでは、経皮投与により皮膚中の免疫誘導能の高い樹状細胞を利用したために、少ないペプチド抗原でも効果的に働き、高い抗腫瘍効果が得られていることが示唆され、予定通り研究は順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにイオン液体を調製可能な生体由来のカチオンは、コリンとアミノ酸及び脂肪酸に限定されており、現在までに“疎水性”の生体適合イオン液体は存在しない。そこで、次年度は、生体由来材料の中で高い疎水性を示す“リン脂質”をカチオンとした新規イオン液体の開発を試みる。 特に難溶解性薬物で代表的なアビガンは、COVID-19の治療薬として高い有効性が確認されているが、現状、血中移行性が乏しいため、大量の投与が必要とされている。このように、アビガンの吸収改善が期待されており、BA(生体吸収率)が向上すれば、創薬分野に与えるインパクトは大きい。経皮デリバリーは薬が皮膚の角層という疎水性の高いバリアを通過する必要があるため、イオン液体による可溶化および長期に薬物徐放が可能な経皮製剤化は大変有効であると考えている。 さらには、経皮ワクチンの吸収促進剤としての利用を考えている。ペプチドなどの可溶化に有効であるため、がん抗原ペプチを利用した経皮がんワクチン並びに経皮インスリン製剤(インスリンテープ)の創成にもチャレンジする方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
アビガン使用の動物試験の実施許可が、本年3月に承認されたため、本年度予定していたアビガンの経皮吸収試験分の経皮を次年度に持ち越した。一方、それに変わり、イオン液体の毒性試験に関しては、前倒しで実験を行った。
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