研究課題/領域番号 |
20K20441
|
配分区分 | 基金 |
研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
小坂 英男 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (20361199)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 量子情報 / 量子メモリ / 量子ストレージ / 量子コンピュータ / 量子ゲート / ダイヤモンド / NV中心 / 電子スピン |
研究実績の概要 |
光、超伝導、シリコン、冷却原子といった様々な量子系による万能量子コンピュータが研究されているが、集積された多数の量子ビットの個別制御が難しいという致命的な問題がある。本研究の目的は安定した量子状態を実現するダイヤモンドのNV中心をプラットフォームとし、レーザ光で各量子ビットにアクセスする手法により、この問題を根本的に解決することである。 初年度は、当初計画していた初年度の目標である「光シフトにより個別に周波数制御されたNV中心の単一量子ゲート操作を実現」を達成した。本成果をベースとし、2年目に計画した下記を行った。
・光アクセスによる個別書き込みと個別読み出し 個別NVの電子スピンへの量子状態の書き込み、量子ゲート操作、読み出しを実現した。これにより、光アクセスによる個別NVの窒素核スピンへの量子状態の書き込み、量子ゲート操作、読み出しも可能となり、長時間量子ストレージの要素技術が完成する。窒素(14N)の核スピン(スピン1)を電子と同様の幾何学構造(V型構造)をもつ量子バッファとすることで、NVの個別書き込みと個別読み出しが可能となる。軌道励起状態にEx、Ey以外にも軌道とスピンが混成したA1、A2準位があり、各々別の目的で利用する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた初年度の目標である「光シフトにより個別に周波数制御されたNV中心の単一量子ゲート操作を実現」を達成し、2年目の目標である「光制御されたNVへの量子状態の書き込み、量子ゲート操作、読み出しを実現」に必要な個別NVの電子スピンへの量子状態の書き込み、量子ゲート操作、読み出しを実現した。これにより、個別NVの窒素核スピンへの量子状態の書き込み、量子ゲート操作、読み出しも可能となり、長時間量子ストレージの要素技術が完成する。
|
今後の研究の推進方策 |
・光アクセスによる個別書き込みと個別読み出し 光アクセスによる個別NVの窒素核スピンへの量子状態の書き込み、量子ゲート操作、読み出しを可能とし、長時間量子ストレージの要素技術を完成する。
最初にA1準位に共鳴するレーザ光(A1初期化光)で全てのNV中心の電子スピンを補助準位(ms=0)に初期化しておく。NVの個別書き込みは、①Ex制御光で光シフトしたゼロ磁場分裂に共鳴するマイクロ波で選択したNVの電子だけを補助準位(ms=0)から幾何学量子ビット準位(ms=±1)に遷移、②A2準位に共鳴するレーザ光(A2書き込み光)を用いたCPT(コヒーレントポピュレーショントラップ)により幾何学量子ビットを所望の量子状態に設定、③マイクロ波およびラジオ波による磁気共鳴操作により電子スピンから窒素の核スピンへと状態転写、の順で行う。NVの個別読み出しは、①光シフトとマイクロ波共鳴で特定のNVだけを選択、②窒素の核スピンから電子スピンへと状態転写、③A2書き込み光を用いた発光により電子の状態を読み出し、の順で行う。この際、窒素を補助量子とした射影的シングルショット(量子非破壊)測定により、読み出し効率を100%近くにすることが可能である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は「光アクセスによる(ダイヤモンド中のNVスピンの)個別書き込みと個別読み出し」を行う予定であった。NVスピンには電子スピン、窒素や炭素同位体の核(核子)スピンがある。2019年度の研究により、電子スピンの個別「光シフト制御万能ホロノミック量子ゲート」が可能となったが、実用上を考えると、メモリー時間の長い核スピンの個別書き込みと個別読み出しが必要と考える。しかしながら、核スピンの個別書き込みと個別読み出しには、実験系の安定性が極めて重要であり、当初は予期していなかった装置の改良が必要であった。そこで、2020年度は実験系の安定性を高める装置改良を行い、2021年度に本格的な「光アクセスによる核スピンの個別書き込みと個別読み出し」の実験を行う予定である。
|