研究課題/領域番号 |
20K20443
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白石 誠司 京都大学, 工学研究科, 教授 (30397682)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トポロジカル超伝導 / スピン偏極 / スピン計測 / クーパー対 |
研究実績の概要 |
3年目である2021年度は引き続きTMD系とFeTeSe系の2つの材料系を対象に研究を遂行した。TMDでは過去2年でその垂直磁化膜との接合界面物性を明らかにしたMoS2だけでなく、新たにWSe2とWTe2を対象材料に加えた。特にWTe2はTMDの中でもワイル半金属物性を有する点でトポロジカル材料科学との接点を持つ重要かつ興味深い材料であると同時に低温で超伝導の発現が報告されており、さらにトポロジカル超伝導の可能性も持つ魅力的材料である。
実験的にはこれらの2つの材料系に過去2年間で実績を有する[Pt/Co]多層膜からなる垂直磁化膜を成長させ、WSe2においてはその界面電子障壁の検討を行いApplied Physics Letters誌に論文を掲載した。WTe2については垂直磁化膜を用いたスピン計測に挑戦したところ、室温に至るまで強固なスピン偏極を有し、その偏極はWTe2膜面垂直方向であることを明らかにした。従来、膜面に並行なスピン偏極の存在は知られており、それがトポロジカル性に由来することも理解されていたが、スピン偏極はおよそ40K程度で消失すること、その消失は結晶構造の温度変化によるトポロジカル性の消失によることも同時に理解されていた。本研究で観測したスピン偏極はWTe2の有する面内反転対称性の破れに起因するため、より強固であることが本研究で明らかにすることができた(論文投稿中)。この効果はスピン無偏極状態である電流からスピン偏極を生む、いわばスピン増幅効果であることも明らかにしており、応用の観点からも重要な成果である。
FeTeSe系では上記のWTe2系を対象とした実験で得た知見をベースに本格的なトポロジカル超伝導に起因するスピン偏極観測を開始し、超伝導転移温度以下で顕著でスピン偏極信号を観測することに成功し、現在いくつかの可能な物理機構について検討を行っている段階である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本丸であるFeTeSe系でスピン偏極計測に3年目で成功したと思われる点や広くTMD系を対象とした磁性電極との界面物性を明らかにしたことに加え、トポロジカルなワイル半金属WTe2における強固なスピン偏極状態とスピン増幅の発見など予想外の物理の現象を見出した点から当初計画を超える新しい物性現象の開拓に成功したと判断できる点から上記評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究開始時点では非常に挑戦的課題であることを念頭において大胆かつ慎重に研究を推進してきたが、これまで極めて順調に研究は進捗している。最終年度はFeTeSeにおける超伝導状態とスピン偏極状態の背景にある物理をトポロジカルs波、スピン軌道相互作用によるp波的スピン結合、超伝導エーデルシュタイン効果など幅広い観点から明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の蔓延が続き実験室へのアクセスにも制限が続いたため、トータルの実験遂行時間が通常の場合よりも短くなり、それに伴って実験に用いる消耗品の消費量が減少したこと、また学会活動が未だオンライン中心で想定していた旅費がほとんど発生しなかったことから次年度への繰越が生じた。次年度への繰越金については、徐々に学会活動が対面に戻りつつあり、海外での国際会議の参加も可能となりつつあることから旅費に充当するほか、実験についても常態に戻せつつあることから予定どおり消耗品購入に充当する予定である。
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