研究課題/領域番号 |
19H05538
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮崎 健太郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (60344123)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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キーワード | リボソーム / Thermus thermophilus / 低温適応 / Random Patch Model |
研究実績の概要 |
本課題では、生物の爆発的な多様化は制御系の進化がもたらしたという史実にヒントを得て、生命システムの根幹をなす制御因子の改変が生物進化に直結するとの仮説を立て、これに基づく生物進化工学を開発する。制御因子のうち、生体内の主たる機能分子であるタンパク質の合成を司るリボソームに着目し、その改変により生じる表現型の多様化された変異株ライブラリー創出と有用形質を持つ宿主を選抜する方法を確立する。令和元年度は、Thermus thermophilus 16S rRNA一遺伝子欠失変異体(DB1株)を宿主に、いくつかの外来16S rRNA遺伝子により形質転換したところ、多くの遺伝子で生育相補と低温適応が確認された。比較的母数の小さな実験ではあったが、野生型(DB1株)の生育できない50°C未満での生育も確認された。すでに大腸菌を宿主とした16S rRNAの生物種間での置換実験により、rRNAが種間で交換可能なことを示すリボソーム進化の「ゆりかごモデル(Cradle Model)」を提唱していたが(2017年)、T. thermophilusを用いた系では、16S rRNA遺伝子内部での組換えも観察された。本観察結果をもとに、従来考えられてきた16S rRNAの分子進化の特異性(水平伝播はせず、垂直進化のみする)を否定し、生物種間で自在に組み変わりながら進化することを支持する「Random Patch Model」を提唱した。本研究結果については、Scientific Reports誌に発表し、F1000 Primeでも推奨された。上記研究の他、供与体拡充を目的に、高熱環境からの微生物の分離を行うとともに、興味深い株についてゲノム解析などを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
小規模なスケールでの実験ながら、当初予定していたT. thermophilusの低温適応に成功した。また、常温菌を含む多くのバクテリア16S rRNAによりT. thermophilusの生育相補が観察されたが、超好熱菌Thermotoga maritima、Aquifex aeolicus由来の16S rRNAでは、全長での生育が見られず、部分的な配列の組換え体のみが得られた。これにより従来我々が提出したゆりかごモデルをより精密化し、遺伝子内部での組換えを考慮したRandom Patcc Modelを提出するとともに、バクテリア16S rRNA(リボソーム)の祖先は単一ではなく、Scaffoldの異なる複数の原始リボソームから進化してきたことも予想された。このように、リボソーム進化モデルの提唱とリボソーム改変による加速進化の両方を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、比較的小規模なライブラリーながら顕著な表現型変化を観察することができたが、16S rRNAの一遺伝子破壊株を宿主に用いていた。より天然に近い形での進化を再現すべく、野生株を用いての実験なども行いたい。また昨年度は温度適応のでは短時間(短世代)の集積培養による変異株の分離を行うが、いくつかの変異株については集積培養温度かそれより低い温度で培養を継続する。これにより、さらに高速増殖する適応株が生まれるかどうかを検討する。変異株が得られた場合、全ゲノム解析を行う。また、低温適応進化以外にも、様々な表現型を指標に、より大規模な実験を行う。より具体的には、生育環境的にもゲノム配列的にも類似したThermus株間で、HB27株とは異なり、好塩性の株であるAA2-20, AA2-29株などを用い、高塩環境適応の分子基盤を探る。
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